市村産業賞

第57回 市村産業賞 本賞 -01

高機能快適繊維素材に資する超精密複合紡糸技術

技術開発者 東レ株式会社 繊維研究所
リサーチフェロー・研究主幹 増田 正人
技術開発者 同社 エンジニアリング開発センター
工務技監・主幹 船越 祥二
技術開発者 同社 フィラメント技術部 三島フィラメント技術課
課長 市川 智之
推  薦 一般社団法人 日本化学工業協会

開発業績の概要

1.開発の背景
 繊維総生産量の約7割を占める合成繊維は、加熱して溶かした高分子化合物(原料)を複数の孔が穿設された金型から押し出す溶融紡糸により製造されている。高機能繊維素材の多くは、2種以上の原料からなる繊維を紡糸する複合紡糸技術によって製造されているが、従来技術では安定的に複合化できる原料の種類や制御可能な繊維断面形態には制約があった。

2.開発技術の概要
 高度化する繊維素材への要求に応えるべく、複合紡糸技術の可能性を追求し、独自の流動制御技術を発明することで、多種多様な繊維断面をナノスケールで形作る、超精密複合紡糸技術を創出した。
 本技術は、従来では組み合わせることが困難であった原料の複合化や3種類の原料を用いた複合紡糸も可能とし、その精密に制御された繊維断面と原料特性とのシナジーによる高機能新素材を創出することが可能となる(図1)。当該技術を高付加価値製品開発の主要技術と位置づけ、当社の既存設備の活用を前提にした生産技術の構築と、世界で事例のない3成分複合紡糸を工業レベルで確立し、国内外での高機能繊維素材の生産体制を整えた。

3.開発技術の特徴と効果
 超精密複合紡糸技術で生み出される繊維素材は、従来技術では実現が困難であった、審美性や着用快適性に加えて、各種の機能性を複合的に備えるものであり、人々の安心・安全で、豊かな生活に貢献するものである(図2)。また、衣料用途だけでなく、産業資材用途からライフサイエンスまで幅広く展開を進めており、高い将来性と社会的意義を有する。

図1

図2