1.開発の背景
心臓の筋肉に血液を供給する動脈(冠動脈)が狭くなったり詰まったりする虚血性心疾患は、近年増加傾向にある。従来のX線CT装置による心臓検査(心臓CT検査)は、心臓の拍動によるブレがCT画像に表れることや、被ばくを減らすためにX線量を少なくするとCT画像にノイズが表れることがあった。そのため、高画質なCT画像と被ばく低減の両立を実現することが大きな課題だった。
2.開発技術の概要
心臓が収縮と拡張の動作を繰り返す中で、被検者の心電図情報から心臓の動きが遅い期間を推定し、その期間でCT画像の生成に必要なX線投影データを収集するX線照射を行い、それ以外の期間でX線照射を停止または低減するX線CT装置を開発した(図1)。また被検者ごとに異なり経時的にも変化する心臓の動きに対応するために、被検者の心電図情報から決定される条件を基にX線制御を行う技術を開発した。これらの技術により、高画質なCT画像(図2)と被ばく低減の両立を実現した。開発技術の実用化とX線CT装置の基本性能の向上により、心臓CT検査の被ばく量を従来の14mSv(シーベルト)から1mSv〜3mSvまで減らすことが可能となった。
3.開発技術の特徴と効果
高画質と被ばく低減の両立というニーズは国内外にて共通で、本開発技術を用いた心臓CT検査は、全世界で広く普及している。2005年の実用化を契機に国内での心臓CT検査数は急速に伸び、2018年には従来の主要な検査として行われていた心臓カテーテル検査の数を上回った(図3)。また、虚血性心疾患の診断ガイドラインでは心電図同期撮影を行うことが推奨されており、本技術は虚血性心疾患の正確な診断に貢献している。
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