1.開発の背景
乗員の快適性を向上させつつ、ライフサイクル全体でCO2排出量を削減できる技術が求められている。我々は、走行時の振動・騒音を抑え、静粛性と安心感を高めるために、自動車の性能に大きく関わる車体の「かたさ」と「しなやかさ」を両立させ、軽量化を実現することを目指した。そこで、車体構造とその接合部に着目し、高分子を使用した接着技術で剛性と減衰の機能を車体に付与する構造接着技術を開発した。これにより、アルミニウムと鋼板を組み合わせた軽量マルチマテリアル車体を実現した。
2.開発技術の概要
1)路面からの振動入力点を高剛性化し,室内への伝達経路を高減衰化することで,振動・騒音を抑えるコンセプトを立案した。
2)上記コンセプトを実現するため,接着剤の,微視的な材料構造の形成及び材料劣化に関する,3つのコア技術を構築し,高耐食剛性用と減衰用の2種類の接着剤を接着剤メーカと共同で開発した。
a.加熱硬化反応の制御技術:低温硬化性と硬化前の貯蔵安定性を両立
b.架橋構造の設計技術:剛性と減衰性を自在に制御する架橋構造を実現
c.劣化の加速評価技術:市場劣化のメカニズムを元に評価手法を確立し開発を効率化
3.開発技術の特徴と効果
本技術を全て採用した新型SUVは,前モデルと比較してフロアの振動を25%低減することで優れた静粛性と軽量化を両立し,「運転と乗車の愉しさ」を実現している。本技術は2019年以降の全ての新型車に順次採用されている基幹技術であり,他業界の振動・騒音対策へも応用可能と考える。また,低温・短時間の加熱硬化性による製造エネルギーの削減と,軽量化による燃費改善により,CO2削減にも貢献する。
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