従来、高分子材料の成形加工条件の最適化は、製品主導の技術開発によって進められてきた。しかしながら、現在のように、技術トレンドの変化に対応して迅速なグレード変更が求められる場合、網羅的に加工条件を変えて、その物性を測定する方法では小ロット・多品種の小口生産に対して限界がある。受賞者は、高分子材料の成形加工工程で起こる構造・物性発現メカニズムを、(1) 高輝度・シンクロトロン放射光源を用いた高時間分解能X線回折・散乱測定、および、(2) 核磁気共鳴を用いた高分解能緩和時間測定を組合わせたインプロセス計測システムを構築し、従来のトライ・アンド・エラーに頼った成形条件の最適化をテーラー・メード化する技術を開発した。
これらの計測技術・成形技術により、分子鎖同士が高度に絡み合った超高分子量ポリエチレンあるいはポリテトラフルオロエチレンを溶融非晶状態から超延伸し、分子鎖絡み合いの低減と分子配向(異方性)の導入を同期的に行うことで高度に分子鎖が配列した構造が得られることを見出した(図1)。本技術は高強度フィルム・繊維の商品化に寄与するとともに、インプロセス計測可能な二軸延伸装置を実用化することで、大面積膜の高性能化・高機能化も達成している。
また、単純な繰り返し単位で構成されるポリエチレンのような汎用性高分子であっても、分子鎖絡み合い点の位置・分布制御によって規則的ラメラ配列構造が得られること、さらに、このナノ規則構造を出発形態とすれば有機溶剤を一切用いずに規則的な細孔構造形成が可能であることを実証している。さらに、このコンセプトとブロック共重合体が自己組織化的にnmオーダーの相分離構造を形成するという現象の共通点を「絡み合い」と「接合点」の関係に見出し、成形条件を最適化することでナノポーラス構造膜やイオン伝導膜を得ることにも成功している。これらは体内埋め込み型グルコースセンサー隔膜や各種電池膜など国内外で共同研究開発中であり、新規の医療・福祉デバイスや工業膜材料への展開が期待されている。
図1 放射光X線を用いた超高分子量ポリエチレン溶融延伸過程におけるインプロセス計測結果 (Macromol. Rapid Commun.誌 表紙)
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