亜鉛を40wt%含むα/β2相黄銅合金は、強度・延性バランスと高い熱間加工性を有しており、自動車・電子部品、家電製品や水栓金具など幅広い分野で使用される。しかしながら、環境・人体への負荷軽減の観点から切削加工性の向上に不可欠な鉛成分の完全撤廃(鉛フリー化)と、鉄を越える高比重による部品重量の増加抑制(強度向上による軽量化)が今後の黄銅合金の世界標準を確立する上で最重要課題である。
受賞者らは、粉末冶金法に基づくナノ・マイクロスケールでの超微細組織構造設計を構築し、鉛を一切含まずに快削性を維持すると同時に、現行の鉛入り黄銅の2倍近くの力学特性を有する鉛フリー快削性・超高強度黄銅粉末合金を開発した。先ず、鉛の代替物質として安価で無害な結晶化黒鉛粒子を選択した。快削性の発現には、黄銅中への黒鉛粒子の均一分散が不可欠であるが、黒鉛の比重は黄銅の約1/4と小さく、現行の溶解製法では、亜鉛成分の蒸発に伴う黒鉛の浮遊現象が生じ、合金内部への分散は困難であった。そこで、In-process温度制御による完全固相焼結法により黒鉛粒子の浮遊・分離を解消すると同時に、切削性を低下させる硬質炭化物の生成を抑制する新たな粉体固化法を確立し、黒鉛の均一分散による快削性を実現した。高強度化に関しては、黄銅粉末を製造する際、溶解法の2,000倍以上の高い凝固速度によって黄銅への錫や鉄、クロム、チタン等の遷移系金属元素の固溶強化、熱処理による化合物粒子のナノ析出強化、黄銅中のβ強化相増加とネットワーク構造形成、急冷凝固法によるα/β結晶粒の微細化といった、溶解法では実現し得ない超微細組織構造制御法を確立した。このような多元系黄銅合金粉末と0.5〜1wt%の黒鉛粒子の均一混合・固化により750MPaを越える引張強さと快削性の両立を可能とする完全鉛フリー黄銅粉末合金を世界に先駆けて開発し、世界標準材としての普及が大いに期待できる。
図1 超微細組織構造制御による開発黄銅合金
図2 開発黄銅合金の強度・切削性
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