市村学術賞

第43回 市村学術賞 貢献賞 -02

新規高酸素イオン伝導体の創出と高効率エネルギー変換への応用

技術研究者 九州大学 大学院工学研究院
教授 石原 達己
推  薦 九州大学

研究業績の概要

 次世代の高効率エネルギー変換装置として固体酸化物燃料電池(SOFC)はその実用化が期待されてきたが、電解質として用いられてきたZrO2の酸素イオン伝導度が低く、実用化が遅れている。本研究業績は、新規な酸素イオン伝導体としてLaGaO3系ペロブスカイトが優れた酸素イオン伝導性を有することを見出し、この材料を電解質とする低温作動、高出燃料電池や新規なセンサへの応用を行ったものである。
 開発したLaGaO3系高酸素イオン伝導体は、純酸素雰囲気から純酸素雰囲気まで、酸化も還元もされず、安定に酸素イオン伝導を示す優れた固体電解質であり、かつその酸素イオン伝導度は従来のY2O3安定化ZrO2に比べても十分大きく、約1桁大きな酸素イオン伝導を示す(図1)。そこで、燃料電池、ガスセンサの電解質や水蒸気電解セルの電解質に応用可能な新しい材料として期待され、実用化が進んでいる。現在、この電解質を利用した10kWクラス(図2)や1kWクラスの低温作動型SOFCを産学連携で開発し、実用化に向けて実証試験が開始され、市場投入が計画されている。一方、熱エネルギーを一部水素として蓄積できる水蒸気電気分解(SOEC)は、熱の水素への変換方法として考えられているが低温域で作動するものはなかった。LaGaO3系セルは600℃でも水蒸気電解が行えることを実証し、現在、小型の電解装置を試作し、新しい排熱の回収方法としてのSOECを産学連携で開発している。また、各種の燃焼排ガスのモニターが可能なセンサとして、LaGaO3系酸化物で電極の組み合わせを選択することで、酸素ポンプ電流の変化量から排ガス中のCOや未燃炭化水素、窒素酸化物を選択的に検知できることも見出し、実用化に向けた検討を開始している。
 本研究成果のLaGaO3系高酸素イオン伝導体は、世界最高の性能を有し、今後、広範囲なエネルギー変換材料として普及が期待される。 )

図1
図1 開発したLaGaO3の酸素イオン伝導度の比較(図中の赤線)

図2
図2 LaGaO3を用いる10kW熱電供給装置