市村学術賞

第43回 市村学術賞 貢献賞 -05

振動加速度計測の高精度化と普及

技術研究者

独立行政法人産業技術総合研究所 計測標準研究部門
主幹研究員 臼田 孝

推  薦 独立行政法人産業技術総合研究所

研究業績の概要

 振動加速度計は、自動車の衝突安全性評価や工場の保安管理など、人命や安全に直結する分野で用いられることから信頼性と共に国際整合性が特に問われる計測機器である。受賞者は振動ノイズの影響を受けにくいレーザ干渉計の考案などにより、振動加速度計の校正装置を開発し、振動加速度の国家標準を確立した。この開発過程において、海外研究機関と共同で国際比較の立案を行うなど、振動加速度計測の国際整合性向上に貢献した。
 研究開始当時、レーザ干渉計の応答周波数が不足することや振動ノイズの影響から、校正範囲は数Hzから数百Hzに限られていた。校正は振動環境下で行われる計測であることから、振動ノイズに対して影響を受けにくいレーザ干渉計が必要である。このためレーザ干渉計から位相が90°異なる4相の出力を検出し、それらの差動成分を検出することで分解能とS/N比を向上させた。図1が開発した干渉計の模式図である.位相が180°異なる干渉光を反転させて合成することで,ノイズ成分は相互にキャンセルされ、S/N比が向上する。またレーザ干渉計出力と実際の変位との位相を評価し、振動加速度計の位相(機械的入力に対する出力の時間遅れ)を校正可能とした。一方国際的には各国標準機関が独自の方法で校正を行っていたが、不確かさ評価も含め校正結果の国際整合性を確認した試みは無かった。そこで国際比較の立案に参画し、各国標準機関における校正結果の同等性評価方法の合意形成にあたった。同等性評価においては校正条件の設定、不確かさ要因、校正能力の継続性などを合意しておく必要があるため、各国機関や国際機関(メートル条約事務局,国際標準化機構:ISO)などと協力し、評価項目・方法の合意形成に貢献した。
 本研究成果は振動計測の信頼性向上を通じて自動車産業、設備産業、家電機器産業などのわが国主要産業の競争力向上に大きく寄与するものである。また、地震計測など社会の安全基盤を構築する上でも大きな波及効果が期待できる。

図1
図1 開発した差動出力型干渉計

図2
図2 構成装置

図3
図3 国際比較の結果