光科学技術(フォトニクス)はレンズなど古典的な光学部品の時代から、レーザ、光ファイバ、ディスプレイといった現代の情報通信機器の時代へと変貌と遂げてきた。しかし大規模集積回路やナノテクノロジーにまで進展したエレクトロニクスに比べると、まだまだサイズが大きく発展途上といえた。フォトニックナノ構造デバイスは、光の回折限界付近のサイズをもつ高度な微細構造により発光や光伝搬を強力に制御し、従来は不可能とされた様々なユニークな現象や機能を生み出し、フォトニクスのさらなる新時代を切り拓いてきた。
フォトニックナノ構造は主に三種類に大別される。すなわち多次元周期モザイク構造であるフォトニック結晶、屈折率差が極端に異なる材料から成るシリコンフォトニクス、金属/誘電体の融合構造であるメタマテリアルである。本研究はこのうち前二者を世界に先駆けて研究し、基礎理論の構築、設計・製作技術の開発、現象・機能の実証、一部実用化に大きな貢献を果たした。特にフォトニック結晶では、世界最小のナノレーザ、光の群速度を自由に変えるスローライト、従来の光学系とは異なる負の屈折光学系などを実証し、これによる小型光送受信器、超高感度バイオセンサ、高輝度発光ダイオード、時間領域光制御素子、高効率光学非線形デバイスなどを実現した。またシリコンフォトニクスにおいては、現在の世界標準となっているシリコン細線導波路による光配線技術を考案して分野を先導し、最近ではCMOSプロセスによる大面積ウエハスケールのデバイス製作、フォトニック結晶との融合を初めて実現し、大規模光集積の現実的なプラットフォームの提供に成功した。
以上の成果は、いずれも世界にインパクトを与え、研究の方向を先導してきたものであり、今後の実用展開が大いに期待される。
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