ラジカル重合は高分子材料を合成する最も汎用性の高い方法であり、世界中で年間500万トンもの高分子化合物がこの重合法によって作られている。しかし、生成する重合体の分子量、分子量分布、モノマー配列等の構造を制御できないことから、分子レベルで高分子材料の機能を高めることに限界があった。この問題点の解決のために、リビングラジカル重合法の開発が世界中で活発に行われているが、産業界で十分に利用できる技術とはなっておらず、実行力の高いリビングラジカル重合の開発が強く望まれていた。
受賞者は、ラジカル反応の高度制御法の確立を背景として、有機テルル化合物を用いるリビングラジカル重合法TERPを開発した。TERPは有機テルル重合制御剤とモノマーとを加熱や光照射することで高いモノマー転化率で進行すると共に、様々なモノマーに対しても適応できる広い汎用性を持つこと、種々の極性官能基と共存できる高い官能基耐性を持つこと、機能性高分子材料の宝庫である共重合体や末端変換重合体の合成にも優れていることから、既存の方法に比べて「モノ作り」技術として格段に優位であることを明らかにした。さらに、TERPの重合機構を解明すると共に、それを通じてその次の世代の重合技術となる有機アンチモン、および有機ビスマス化合物を用いる重合法(SBRP、 BIRP)の開発にも成功した。
本技術を用いた共同研究を通じて、新しい構造の制御された多孔質ポリマーゲルや高密度ポリマーブラシ等の機能性材料の開発に成功している。さらに産学共同研究では、優れた物性を示す感圧接着剤や相容化剤への開発にも成功している。本技術は高い機能を持つ高分子材料創製の基礎技術であることから、大きな波及効果が期待できる。
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