市村学術賞

第45回 市村学術賞 貢献賞 -04

量子コヒーレンスの断熱操作とその極限光技術への応用

技術研究者

電気通信大学 大学院情報理工学研究科
教授 桂川 眞幸

推  薦 電気通信大学

研究業績の概要

 1960年のレーザーの発明以来今日に到るこの50年間に光科学・技術は極めて大きな発展を遂げた。この分野に多数のノーベル賞がもたらされ、また、産業においても光通信や集積電子デバイス製造を支えるリソグラフィー技術、さらにはレーザー加工など社会を支える基幹技術が形成された。この学術領域の最大の特徴は、それがレーザーの極限化技術と密接な相補関係をもって発展してきたことにあり、また、その極限化が発明から50年を経た現在においても、その限界が見えないほど急速に進展し続けていることにある。一方、50年を経た現在でもレーザー技術に関する全く未踏の領域が大きく残されている。物理的に本質的な困難を伴っているからである。
 本研究は、その物理的限界に挑戦することで、レーザー技術の極限化に関する未踏領域を開拓することを目指したものである。受賞者は、非線形光学過程を断熱操作(量子コヒーレンスの断熱操作)することで、物質を構成する全ての分子がコヒーレントに非線形分極した状態(最大コヒーレンス状態)を実現した。これによって、レーザーの草創期より効率の良い非線形光学過程を実現するために必須の要件と考えられてきた"位相整合条件"の物理的な制約が取り除かれた。受賞者は、最大コヒーレンス状態を現実の系で実現するために、最適な非線形媒質の作製技術と任意の二周波数の組み合わせで発振可能な注入同期レーザー技術を確立した。さらに両者を組み合わせて、超広帯域(500 THz)に渡る高品質のコヒーレント離散スペクトル群を位相整合の制約を受けることなく発生させた。時間領域においては、現在使用されている光通信技術に比べて1,000倍速い10 THzの超高速パルス列を生成する技術を確立した(図1)。周波数領域においては、励起に用いる二周波数に光周波数標準の精度を転写することで、標準的な光周波数コム光源よりも10,000倍高輝度化が可能な光周波数コム生成技術の基礎を確立した(図2)。

図1

図2