市村学術賞

第45回 市村学術賞 貢献賞 -05

多様な燃料の詳細化学反応機構解明のための火炎クロマトグラフ法の開発

技術研究者

東北大学 流体科学研究所
教授 丸田  薫

技術研究者

同大学 同研究所
助教 中村  寿

技術研究者

同大学 同研究所
技術職員 手塚 卓也

推  薦 東北大学

研究業績の概要

 多様化する様々な燃料に対して、高精度な実験に裏付けられた精緻な燃焼化学反応モデルを構築し、燃焼利用の高効率化を図る必要がある。着火・燃焼特性の試験装置はこれまで、大型で取り扱いに専門性を要する衝撃波管や急速圧縮機などに限られていた。本手法は、微小な炎の性質に関する研究(マイクロ燃焼)に取り組む中で偶然見いだしたWeak flame現象に着想を得、着火・燃焼特性を評価する新原理の試験法実現に成功したものである。
 流れ方向に温度が徐々に上昇するよう外部熱源によって温度分布を与えたマイクロチャネルを用いることで、燃焼熱によって形成される急激な温度上昇のある場をつくらずに、燃料が温度上昇と共に比較的低温(600 K程度)から酸化剤と反応を開始し、順次反応が完了(〜1300 K)するまでの過程(通常は高速の過渡現象である着火現象)を、温度域別に分離した定常な複数の反応帯(火炎クロマトグラフィ)として安定化することに世界で初めて成功した。こうして得られる火炎クロマトグラフィを用いることで、多くの実用炭化水素燃料が呈する低温酸化反応(600〜800 K)と、主たる発熱を担う高温酸化反応を個別に定常観察することができる。ガソリンエンジンにおける耐ノッキング性能を示すオクタン価やディーゼルエンジンにおけるセタン価の推定、天然ガスの個々の成分が着火・燃焼特性におよぼす影響など、従来の試験装置では観察できなかった着火・燃焼反応過程を、裏付けのある実験データを使って詳細に調べることが可能になる。
 世界的な燃料多様化傾向のなか、化石燃料からバイオ燃料・合成燃料へのシフトが進められている。本装置をツールとして援用することで、多様な燃料に対して高度に最適化された燃焼器の実現が期待される。なお本装置は重工メーカと共同で実用化・市販されており、自動車メーカの研究所において開発に使用されている。

図1

図2