市村学術賞

第46回 市村学術賞 功績賞 -02

フレキシブル有機デバイスの大面積エレクトロニクス応用

技術研究者

東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻
教 授  染谷 隆夫

推  薦 東京大学

研究業績の概要

 受賞者は、有機デバイスを駆使することによって、世界で初めて「アクティブマトリックス方式(格子状に並べられた薄膜トランジスタ)によるフレキシブル大面積センサ」の開発に成功した(2003年)。特に、伸縮自在で、温度と圧力の分布を同時に計測できる大面積のセンサフィルムは、次世代のロボット用の電子人工皮膚として有望視されている。この業績は、「大面積化の容易さ」と「曲げやすさ」という有機半導体の二大特徴を巧みに捕えて達成されたものである。シリコンは単位面積あたりの製造コストが高く、大面積で柔らかいエレクトロニクスを実現する際の障害となっていたが、有機半導体でこの問題を解決する道筋を明確に示した。
 電子人工皮膚に加えて、シート型スキャナー(2004年)、超薄型点字ディスプレイ(2005年)、ワイヤレス電力伝送シート(2006年)、通信シート(2007年)、超音波シート(2008年)、筋電計測シート(2013年)など世界初となるフレキシブルな大面積デバイスのアイディアを次々と具現化する成果を発表し、当該技術の将来の方向性を明確に示して、分野を牽引し続けてきた。
 最近では、厚さ1マイクロメートル(キッチンラップの厚さの1/10)という極薄の高分子フィルム上に高性能な有機トランジスタ集積回路、有機太陽電池、有機発光デバイスなど有機デバイスを作製する技術を確立した。これら素材の柔らかさを生かした極薄の有機デバイスは、驚異的に丈夫で、曲率半径5マイクロメートルまでつぶしても、あるいは200%伸張させても壊れないことが示され、有機デバイスが再現性の高い電子部品として活用できることが実証された。この大面積で柔らかいセンサは、ヒトの表面に貼り付けて装着感なく生体情報を計測するシート型システムへと飛躍的な発展を見せており、ヘルスケア・医療をはじめとする多方面へ大きな波及効果が期待できる。

図1