省エネルギーと電力の安定供給は喫緊の課題であり、電力利用効率の向上が益々重要になっている。電力は発電所で生成されてから送変電を経て、電気機器で消費されるまでの間に、多段階の交流→直流変換、直流→交流変換が行われている。しかしながら、各々の電力変換効率は約90%に留まっており、約10%の電力が熱として排出されている。この変換効率を決めるのは、主に電力用半導体デバイス(大電力を扱うトランジスタとダイオード)の性能である。本研究では、電力用デバイスに用いる半導体材料を従来の珪素(Si)から炭化珪素(SiC)に変えることで、電力損失を大幅に低減することを目指した。
炭化珪素(SiC)は強固な共有結合を有する半導体であり、高電界、高温に対する耐性がSiに比べて著しく優れている。しかしながら、受賞者が本研究に着手した約20年前の段階では、SiCの半導体材料としての研究は極めて限定的で、高品質結晶の作製、物理的性質の解明、p型/n型の伝導性制御、デバイス作製技術などいずれも未開拓の状況であった。受賞者は、SiC半導体に関して、学理に基づく超高純度・高品質単結晶の実現、体系的な材料物性の解明と制御、既存の半導体の理論限界を桁違いに突破する高性能デバイス実現に至る学術的基礎研究および実用化研究に取り組み、「SiC半導体の材料科学」と「革新的な高効率パワーエレクトロニクス」の発展に貢献した。
SiC半導体の学理研究に関しては、結晶成長理論に基づく高品質成長の指針提示、超高純度化(不純物の割合10-10)、点欠陥の起源解明と独自手法によるほぼ完全な除去、キャリア寿命の増大(1μs → 33μs)と制御、物理的性質の精密決定などを達成し、半導体材料としての学理を築いた。さらに、酸化膜/SiC界面の高品質化、イオン注入、電極/SiC界面制御等の研究開発を通じて、SiC電力用デバイス作製に関わる基盤技術を確立した。
実用化研究に関しては、世界初の高耐電圧(1kV)ダイオード、世界最高性能の高耐圧SiC MOSFET、超高耐圧(20kV)デバイス、400℃の高温動作実証などの成果を挙げた。また、産学連携も推進し、企業と共同で世界初の量産用SiCエピタキシャル成長装置の開発、世界初のSiC MOSFET実用化などに寄与した。現在、これらSiC半導体の実用化が進展し、様々な電気機器の省エネや小型化に貢献している。
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