2001年の米国世界貿易センタービルの崩壊、2011年ニュージーランド地震におけるCTVビルの倒壊などに見られるように、建物の崩壊は多くの人命を損なう危険性が高いだけでなく、建物内で生活する我々を不安にさせる一つの要因となる。これらの建物の崩壊要因を究明することで、安全な建物を建てる上での重要な指針を打ち出すことは、特に今後も大地震の発生が予想されている我が国の社会にとっては急務である。そこで受賞者は、このような強非線形・不連続現象を有する大規模な問題に対処するべく、有限要素法に基づく崩壊解析技術を独自に開発した。
本解析技術は、はり要素の数値積分点を順応的にシフトすることで部材レベルの応力状態、変形状態を精度良く計算する。また、破断や接触などの現象も表現できるため、建物の崩壊要因を究明する上で重要な、高速移動物体との衝突や階層間の衝突などを再現することが可能である。さらに、マクロモデルで効率良くモデル化を行うことができるために、大規模な建物でも一般的なPCで十分に解析可能とする。これは、建物の建設・解体を業務とする大手の建設会社のみならず、建築設計事務所、建物のリスク算出に関わる保険会社などでも通常業務内で解析を行い、その結果を活用できることを意味している。
受賞者は、この解析技術を用い、これまでに前述の世界貿易センタービルやCTVビル、また1985年メキシコ地震における集団住宅の倒壊要因を究明してきた。これらの一連の調査では、従来の解析技術では得られなかった、階層が陥落に至るまでの過程や破断に伴う衝撃波の伝播などが明らかになっている。その他、2011年東日本大震災の津波被害に鑑み、漂流物との衝突と津波の双方に耐える避難ビルに関する検討に活用されるなど、今後の重要建築物や津波避難ビルの建築基準策定にも大きな波及効果があることが予想される。また、老朽化が進む鋼構造建築物の発破解体に関するシミュレーション技術に適用することにより、効率良く解体を行う工法の発展にも大きく寄与するものと考えている。
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