市村学術賞

第47回 市村学術賞 功績賞 -01

高効率な医薬品製造を可能にした革新的脱水縮合反応の開発

技術研究者

東京理科大学 理学部応用化学科
教授 椎名 勇

推  薦 東京理科大学

研究業績の概要

 人類が医薬品として利用する物質のほとんど全ては有機化合物である。大気中の二酸化炭素が光合成を通じて有機物へと変換され、これをもとに現在の生物世界の根幹をなす脂肪酸やアミノ酸が生合成によって得られている。面白いことに、光合成は二酸化炭素と水を必要とするのに対し、脂肪酸やアミノ酸が高次構造を獲得してさらに高い機能を発現する化合物(脂質やペプチド)に変わるためには分子間で脱水縮合しなくてはならないことが多い。動植物は酵素を巧みに使ってこの反応を体内で実現しているが、人為的な技術を用いて有機物から水分子を除去し結合させる方法には未だ改善の余地が残されていた。受賞者は付加価値の高い医薬品などの有機化合物を収率良く生産する手段の開発を目指し、(i)世界で最も速く進行する脱水縮合反応ならびに(ii)世界初の発明である不斉脱水縮合反応の開発に成功した。
 まず、1990年代初頭より開始した脱水縮合反応の基礎研究では、置換安息香酸無水物を用いる脂肪酸エステルの製造方法を見出した。2002年には2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物(MNBA)を用いる改良法を立案し、環状化合物(ラクトン)構築に最も適した骨格形成反応を確立した。現在、MNBAはスピルコスタチンに代表されるマクロライド系分子標的抗がん剤の合成、スルホンアミド型糖尿病治療薬の合成、新規抗生物質アザライドの合成等で用いられ、新薬探索研究に欠かせない脱水縮合剤として幅広く活用されている。
 次いで、受賞者は2007年に不斉有機触媒を上記反応系に組み込むことでラセミアルコールの速度論的光学分割法を新たに編み出し、酵素反応に匹敵する選択性の達成に成功した。2013年には脱水縮合によるラセミα-置換カルボン酸の動的速度論的光学分割法(DKR)を開発し、これまで酵素反応を用いても選択的な合成が困難であった光学活性非ステロイド性抗消炎薬(NSAIDs)の供給を容易にする新規生産プロセスを確立した。

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