市村学術賞

第50回 市村学術賞 貢献賞 -03

ソーラーセイル技術を用いた無燃料姿勢制御の実現

技術研究者 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所
宇宙飛翔工学研究系 准教授 津田 雄一
技術研究者 同機構 研究開発部門 第一研究ユニット
大野 剛
技術研究者 同機構 宇宙科学研究所 はやぶさ2プロジェクトチーム
三桝 裕也
推  薦 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構

研究業績の概要

 当研究は、太陽光の光子運動量を積極的に利用することにより、燃料消費のない宇宙機の姿勢制御法を実用化したものである。従来、太陽光圧は宇宙機にとって擾乱としかみなされていなかった。当研究はそのような太陽光圧を積極活用する技術を考案・理論化し、2つの深宇宙探査機(小型ソーラー電力セイル実証機IKAROS:2010年打上、小惑星探査機はやぶさ2:2014年打上)の姿勢制御への適用を通じて有効性を実証した。
 太陽光圧を積極利用した航行法はソーラーセイルと呼ばれ、新たな太陽系航行技術として世界的に研究が盛んに行われている。本技術はその主要な技術課題のひとつである光圧を使った姿勢制御について実用性の高い解決法を世界で初めて与えたものである。
 本手法が利用するのは、机上の独楽の運動にみられる歳差運動の原理である。受賞者らは、太陽光と宇宙機の角運動量の相互作用により生じる歳差運動を表現する、いかなる光学特性の宇宙機にも適用可能な数学モデルを導出し、それを利用して宇宙機の姿勢を長期間安定的に太陽へ向け続けられる技術を開発した。本手法の従来の姿勢制御手法にはない利点は(1)燃料が不要、(2)安定性が理論的に保証され制御の信頼性が高い、(3)従来3つ以上必要だった姿勢制御装置(リアクションホイール)が0ないし1つで済むので宇宙機の低コスト化と長寿命化に資するという点である。
 本手法は、IKAROS(スピン型の宇宙機)の運用を通じて発見的に理論化され実用化された。さらにその理論を拡張してはやぶさ2(三軸安定型の宇宙機)に適用し、汎用性が実証された。本成果は、光子エネルギーを運動量として利用する新たな太陽系航行技術の実現に先鞭をつけるもので、特に昨今発展普及の著しい小型の宇宙機や大型構造物を有する宇宙機の高効率・高信頼度の航行法を切り拓く上で先駆的な貢献となるものである。

図1

図2