市村学術賞

第51回 市村学術賞 貢献賞 -01

分子活性化法による有機フッ素化合物の実用的合成

技術研究者 群馬大学 大学院理工学府 分子科学部門
教授 網井 秀樹
推  薦 群馬大学

研究業績の概要

 有機フッ素化合物は、フッ素原子が醸し出す特異な性質により、医薬、農薬、液晶、高分子材料として利用されている。例えば、フッ素原子の電気陰性度の大きさや炭素-フッ素結合の強さから、生物活性や材料特性などの向上が期待できる。特に、医薬・農薬分野での有機フッ素化合物の応用は年々増加している。様々な分野で有機フッ素化合物のニーズが高いにもかかわらず、一般的にフッ素化合物の合成研究は困難なテーマである。これは含フッ素原料物質の入手の難しさ、フッ素化合物の反応制御の難しさに起因しているために、有機フッ素化合物の幅広い応用研究が滞っている現状である。
 受賞者は分子活性化法を用いて、汎用化合物から有用な有機フッ素化合物を合成する手法を開発した。含フッ素カルボン酸は、入手が容易な有機フッ素化合物である。含フッ素カルボン酸誘導体を原料として用いて、分子活性化法(フッ素版”錬金術”)により、高価値のフッ素化合物に変換した。具体的には、マグネシウム金属を用い、トリフルオロメチル化合物の脱フッ素-シリル化反応を行なった。本炭素-フッ素結合活性化反応は適用範囲が広く、各種の機能性フッ素化合物が効率良く得られた。特に、炭素-フッ素結合活性化反応を、高性能絶縁高分子材料のモノマーの効率的合成に適用した。また、受賞者はフッ素系アルコール溶媒がイミン部位を活性化することに着目した。パラジウム触媒によるイミノエステルの不斉水素化反応を開発し、含フッ素アミノ酸類の実用的な触媒的合成法を創出した。さらに、含フッ素官能基導入クロスカップリング反応を研究していく過程で、脱炭酸工程を鍵とする芳香族ジフルオロメチル化の新手法を見出だした。一方、新しいジフルオロカルベン源としてブロモジフルオロ酢酸ナトリウムを開発するなど、フッ素化試薬の発明にも注力した。

図1