市村学術賞

第51回 市村学術賞 貢献賞 -02

波面補償を用いた大容量・高速ホログラムメモリーの開発

技術研究者 日本放送協会 放送技術研究所 新機能デバイス研究部
上級研究員 木下 延博
技術研究者 同協会 同研究所 同研究部
主任研究員 室井 哲彦
技術研究者 同協会 同研究所 同研究部
上級研究員 石井 紀彦
推  薦 日本放送協会

研究業績の概要

 4K8K映像などの膨大なデータを大容量かつ高速に記録再生でき、さらに長期保存に適したアーカイブ用記録装置として、光記録技術であるホログラムメモリーの実用化が期待されている。現在の一般的な光ディスクとは異なり、ホログラムメモリーの記録材料にはフォトポリマーを用いる。しかし、記録時の重合反応や再生時の温度変化による体積収縮・膨張により、記録したホログラムに小さな歪みが生じ、再生信号が劣化する課題があった。
 受賞者らは、ホログラムの歪みを光学的に補償するように記録媒体へ入射する参照光波面を生成してデータ再生を行う波面補償技術を開発した。はじめにホログラム歪みのメカニズムを解析し、再生信号から最適波面を生成するための評価指標を確立した。次いで、評価指標を用いた最適波面探索、波面制御器による波面生成という一連の波面補償技術を構築し、原理実証した。さらに、波面補償技術を導入したホログラムメモリーのプロトタイプドライブを開発し、有用性を検証した。その結果、通常の再生方式ではデータ誤りを訂正できないほどホログラムに歪みが生じた場合でも、波面補償技術により誤り訂正が可能なまでデータ誤りを低減できることを確認した。このように波面補償技術は、ホログラムメモリーにおける再生マージン拡大に大きく貢献するものであり、ドライブを実用化する上で必要不可欠な技術である。
 波面補償技術を搭載し、再生マージンが広く安定して再生可能なホログラムメモリーが実用化されることで、4K8K映像のアーカイブだけでなく医療機関やデータセンターなど、今後も増え続ける膨大なデータを扱うアーカイブシステムでの普及が期待される。

図1

図2