市村学術賞

第51回 市村学術賞 貢献賞 -05

超高密度FePt磁気記録媒体の開発

技術研究者 国立研究開発法人 物質・材料研究機構
磁性・スピントロニクス材料研究拠点 磁気記録材料グループ
グループリーダー 高橋 有紀子
推  薦 国立研究開発法人 物質・材料研究機構

研究業績の概要

 すべてのモノがインターネットでつながり欲しい情報がいつでもクラウドから取り出せるIoT社会の到来により、世界で取り扱われるデジタル情報量は指数関数的に増加している。デジタル情報はデーターセンターで保管され、大容量・高信頼性・安価という特徴を持つハードディスクドライブ(HDD)がストレージデバイスとして用いられている。一方で、データーセンターの電力消費量は世界のそれの数%を占めており、地球環境の保全の観点からもHDDには更なる高密度化が求められている。HDDは図1に示すように記録媒体や再生素子などの最先端のナノテクノロジーが駆使されているため、高密度化には各デバイスの総合的な技術革新が必要となるが、高密度化におけるキーデバイスは情報を蓄えておく記録媒体である。
 受賞者らは、記録媒体の高密度化を実現するために、L10の規則構造を持つFePtに着目した。L10-FePtは高い異方性を有するため、約20年前からTbit級の記録密度を持つHDDを実現できる記録媒体の材料として注目されていた。しかし、規則化には高温プロセスが必須であり、それが粒子の合体を引き起こす原因となっていたため、媒体で必要とされる均一な微粒子組織が得られなかった。受賞者らはFePtと相分離しやすい材料系に着目した結果、FePt-Cにおいて均一な微粒子組織と高い磁気特性を得ることに世界に先駆けて成功した(図2)。この結果は、特にHDDメーカーに強いインパクトを与え、本結果を発表した直後にすべてのHDDメーカーにより再現実験が行われ、実用化のための研究開発が始められた。実用化には、FePt粒子形状の制御や新規下地層の材料開発など様々な課題があったが、それぞれにおいて材料科学的な貢献を行った。FePt媒体は2年前にSeagate社よりサンプル出荷が行われ、2019年に市場への出荷が予定されている。

図1

図2