市村学術賞

第52回 市村学術賞 功績賞 -02

ペロブスカイト太陽電池の創製と高効率化の研究開発

技術研究者 桐蔭横浜大学 大学院工学研究科・医用工学部
特任教授 宮坂 力
推  薦 桐蔭横浜大学

研究業績の概要

 受賞者は有機無機ハイブリッド組成からなるハロゲン化鉛ペロブスカイト (図1、ABX3の結晶構造)の薄膜が可視光を吸収して光発電する能力を発見し、2009年には変換効率が3.8%のペロスカイト太陽電池の作製を最初に論文発表した。2012年には溶液晶析法による結晶膜の質を高めて効率が10%を超えたことをきっかけに、安価な溶液塗布法によって作るペロブスカイト型太陽電池の研究が世界的に拡大し、現在はSi結晶太陽電池に迫る25%以上の実用効率に達している(図2)。
 メチルアンモニウム(MA) と鉛(Pb)を陽イオン、ヨウ素(I)などのハロゲンを負イオンとするMAPbI3組成の典型的なペロブスカイトは、直接遷移吸収の真性半導体として厚さ0.5μmの薄膜で可視光を全吸収して光電流に変換する(図2、挿入図)。この薄膜に電荷輸送層を接合して作製する太陽電池は、ペロブスカイトの持つバンドギャップに対して電圧損失がかなり低く抑えられた高い電圧を出力する。この高電圧特性が高効率の性能を可能にしている。
 ペロブスカイト光活性層から高い光電変換特性を引き出し耐久性にも優れる物性を得ることを目的として、受賞者はペロブスカイト結晶の膜質を緻密性と平坦性の点で高める製膜方法によって効率が22%を超える高効率化の基盤技術を構築した。また、ペロブスカイト組成を耐熱性に優れるオール無機の組成に変換する研究を進め、電荷輸送層にも耐久性に優れる各種の新材料を組み合わせることを検討し、これによって素子の特長である開回路電圧は単一素子で1.4V以上に届くことを明らかにした。さらにペロブスカイト太陽電池が放射線暴露に対して高い安定性を持つことを見出した結果、宇宙環境への応用の道を拓いた。

図1

図2