市村学術賞

第52回 市村学術賞 貢献賞 -01

水中における無保護グリコシル化法の確立

技術研究者 東北大学 大学院工学研究科
名誉教授 正田 晋一郎
推  薦 東北大学

研究業績の概要

 糖鎖は自然界で情報分子として重要な機能を担っている。糖鎖がタンパク質と結合した巨大な分子が、糖タンパク質と呼ばれる高分子である。糖タンパク質は、免疫、癌転移、生活習慣病と深く関わっており、次世代医療の担い手として科学者の関心を集めている。さて、このような複雑なグリコシル化合物を製造するにあたっては、完璧な位置及び立体選択性をもって糖鎖をタンパク質に結合させねばならない。しかし、通常グリコシル化は、有機溶媒の使用や保護基の脱着を必要とし、水溶性の糖鎖とタンパク質を水中でつなげることは不可能であると長年考えられてきた。
 受賞者は、このような常識を覆し、“保護基を一切使用しない水中における糖の活性化・グリコシル化”という、糖質科学の歴史の中で過去に例を見ない革新的な技術を開発した。この手法は“正田活性化法”と呼ばれ、均一な糖鎖をもつ構造明確な糖タンパク質合成に不可欠な基本反応として、その高い一般性ゆえに短期間のうちに世界中の研究者により利用されている。中でも糖オキサゾリン調製法は、糖タンパク質合成を支える基盤技術として確立されており、産業的にも製薬会社をはじめ複数の企業が実用化に向けた研究を加速している。
 さらに受賞者は、高活性な化学種である1,2-アンヒドロ糖をフラスコ内で発生させることに初めて成功し、この発見を礎にチオグリコシドやアジド糖などを一気に調製する画期的な手法を開発した。このように独自の発想のもと創案された実用的方法論が生み出された背景には、受賞者が有機合成化学的に未解決の重要課題が残されていたグリコシル化に40年以上にわたり一貫して取り組み、積み上げた功績がある。

図1