市村学術賞

第53回 市村学術賞 功績賞 -01

超高速ビジョンの開発とその応用

技術研究者 東京大学 情報基盤センター
特任教授 石川 正俊
推  薦 東京大学

研究業績の概要

 知能システムにおいて、人間の目に相当する視覚情報処理(画像処理認識)の多くはビデオレートである30 fpsで実現されており、その情報を基にした視覚フィードバックも30 Hzで行われている。そのため、実世界との相互作用において重要なリアルタイム性が損なわれており、多くの視覚情報処理技術は、システムの高速化のボトルネックとなっている。知能システムの高速化には高速画像処理が不可欠であり、その解決が強く求められている。そこで、画像処理を高速化するとともに高速な知能システムを構築することを目的とし、その実現に向けて、高速知能システムを支えるデバイス、アルゴリズム、並びにシステムアーキテクチャの一体的な研究開発を行った。
 具体的には、1秒間に1,000枚の画像取得・処理が可能な超高速ビジョンを開発し、実用化させるとともに、様々な応用技術を開発した。これらの技術並びに超高速ビジョンを用いた知能システム構築の際には、並列処理技術、LSI設計技術、光情報処理技術、センサフュージョン技術、高速ロボット技術等を融合し、学術的かつ体系的に整備することにより、従来システムをはるかに凌駕する高速知能システムを実際に構築した。具体的には、各種高速ビジョンチップ・システム、1msでの3次元形状計測、高速書籍電子化、高速焦点追従投影システム、高速道路トンネル検査システム、ダイナミックプロジェクションマッピング、スローイングバッティングロボット、勝率100%じゃんけんロボット、高速二足走行ロボット、高速ロボットハンドによる剛体から柔軟物体までの様々な動的かつ高速な操り等を実現した。知能システムの視覚情報処理における速度面において、大きな量的変化(革新的向上)を実現し、それに伴い、大きな質的変化(静的から動的へ)を可能にした。
 これらの研究成果が認められ、幅広い様々な分野において国内外の学会から130件を超える権威ある賞を受賞し、その技術の高さが伺える。実用化された技術も多く、並列処理機構を内蔵した高速ビジョンチップカメラ、高速ロボットハンド用に開発した小型高出力アクチュエータやダイナミックプロジェクションマッピング用に開発した高速プロジェクタは既に製品化されており、卓越した研究成果とその実用・応用可能性及び将来性が高く評価されている。これらの研究成果は、上記の応用分野すべてにわたって、システムの知能と高速性の大幅な向上を可能にし、幅広い応用可能性が考えられ、今後、自動車・ITS技術・セキュリティ・メディア等への拡大も視野に入れており、ビジョンチップとその高速な知能システムの技術的波及効果は多大であると考えられる。受賞者の研究成果は、独創的かつ体系的であり、産業界からの評価も高く、その応用分野の広さと実用性の高さから、様々な分野で大きな技術的革新をもたらすと考えられ、産業界への貢献度と将来への期待度は極めて高い。