市村学術賞

第53回 市村学術賞 貢献賞 -03

巨大地震に繰り返し耐える新しい制振ダンパー合金と溶接技術の開発

技術研究者 国立研究開発法人 物質・材料研究機構 構造材料研究拠点
グループリーダー 澤口 孝宏
技術研究者 同機構 技術開発・共用部門
ステーション長 中村 照美
技術研究者 株式会社 竹中工務店 技術研究所
未来空間部長 櫛部 淳道
推  薦 国立研究開発法人 物質・材料研究機構

研究業績の概要

 受賞者らは、ひずみ制御弾塑性変形下の疲労寿命を従来鋼材の約10倍に高めた新合金とその溶接技術を開発し、この合金と溶接技術を用いて地震から建物を守る制振ダンパーを開発して実用化した。地震が発生すると制振ダンパーは柱や梁などの主架構に先行して繰り返し弾塑性変形を受け、地震エネルギーを熱エネルギーに変換して振動を吸収する。近年、相次ぐ巨大地震において、長周期地震動、巨大地震後の連動地震、大規模余震などの事例が相次ぎ、これら大規模変形の繰り返しに耐えられる制振ダンパーの開発が強く要請されていた。そのためには、鋼材制振ダンパーの弾塑性変形下の疲労耐久性向上が喫緊の課題であった。
 候補者らは、面心立方構造のオーステナイト(γ)相から最密六方構造のε相へマルテンサイト変態する鉄系合金において、繰り返し弾塑性変形下で、γとεの二つの結晶構造の間で相転移を繰り返す新現象を発見した。さらに、合金組成−変形組織−疲労寿命の相関を系統的に調べることにより、疲労寿命を改善させるための合金設計指針を構築し、金属材料学の常識を打ち破る従来比10倍の疲労寿命を有する新合金Fe-15Mn-10Cr-8Ni-4Si(FMS合金)を開発した。
 この新合金に対して従来の溶接材料を使用すると溶接部に高温割れが生じ、溶接構造体を製作することが困難であった。そこで、候補者らは新合金の溶接時の凝固挙動を解明・制御することにより、新合金用の溶接ワイヤを開発し、さらに、溶接技術を確立することで大型の溶接構造部材の製造が可能となった。以上により、長寿命の高性能制振ダンパー開発に成功し、建築物への実装が行なわれた。

図1

図2