市村学術賞

第53回 市村学術賞 貢献賞 -05

超臨界水反応による新物質・材料創成

技術研究者 東北大学 材料科学高等研究所
教授 阿尻 雅文
推  薦 東北大学

研究業績の概要

 受賞者は、30年前、「超臨界水中での反応」、そしてそれによる「モノづくり」の研究に世界に先駆け取組んできた。超臨界場では、水と油、気体が均一に混合し、通常得られない特異な反応も生じる。反応を精密に制御できるフロー型反応システム(図1上)を独自に開発し、超臨界反応機構を解明するとともに、さらにそれを積極的に利用した新反応、廃棄物改質、新材料開発等、様々な応用展開を示し、世界の多くの研究者・技術者をこの新領域に集結させた。学術のみならず、その成果は世界初の超臨界ナノ粒子連続合成プロセス(無機反応)や超臨界ケミカルリサイクルプロセス(有機反応)の実用化にも繋がっている。
 超臨界水反応場では、有機反応と無機反応が同時に進行させうる。これにより、有機―無機複合ナノ粒子が創成することを発見した(図1下)。この有機修飾ナノ粒子は、溶媒や脂とも高い親和性を有することから、産業界では3Dインクジェットプリンター用ナノインクや高熱伝導材料など、広い分野への応用展開が進められている(図2上右)。さらに、最近この新ナノ素材が異常に大きな構造歪を有し、それに起因する新たな電子状態、化学的特性(図2下:低温イオン伝導性)が発現することを見出した。低温廃熱利用のCO2ゼロ水素製造・完全リサイクルが可能となり、エネルギー環境分野にも大きなインパクトを与えている。

図1

図2