市村学術賞

第53回 市村学術賞 貢献賞 -06

環境振動型MEMSエナジーハーベスタの研究開発

技術研究者 東京大学 生産技術研究所
教授 年吉 洋
技術研究者 静岡大学 学術院工学領域
教授 橋口 原
推  薦 東京大学

研究業績の概要

 すべてのモノの情報をネットに繋げるIoT(Internet of Things)技術により、道路・鉄道・ライフライン等の社会インフラの安全監視や、クルマ・工場の故障予知など、知識集約産業の実現を加速する大変革が進みつつある。その実現に向けて国内外で超小型センサ、エッジコンピュータ、無線通信技術が開発されてきたが、これらのエレクトロニクスに電力を供給する方法として、電池以外の決定的な手段がなかった。そこで申請者らはこのボトルネックを解消するために環境にあまねく存在する微弱な機械振動に着目し、これを高効率で電力に変換するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システム)型のエナジーハーベスタを共同で研究開発した。これにより、IoT無線センサに半永久的に電力を供給する環境振動発電型エナジーハーベスタの基盤技術を確立した。
 本研究の最大の特徴は、MEMS技術との整合性のよいシリコン酸化膜を本研究独自の方法で高密度の永久電荷(エレクトレット)として帯電し、これをマイクロ寸法の可動電極に用いることで、機械振動から静電誘導電流を効率よく発生する共振型の小型エナジーハーベスタを実現した点にある。これまでに、出力を最大化するためのMEMS機構設計理論を確立し、シリコン系微細加工プロセスによる製造方法を完成して、理論値に対する電力取り出し効率92%、体積あたり発電量763μW/cm3、素子あたり発電量1.3mW(いずれも世界最高値)の振動発電を実現した。また、エレクトレット材料の長期信頼性を確認し、小型無線センサの電源として長期間使用可能であることを実証した。本共同研究の成果は連携先企業に技術移転しており、数年以内の事業化を目指している。

図1

図2