市村学術賞

第54回 市村学術賞 貢献賞 -01

光駆動高分子アクチュエーターの開発

技術研究者 中央大学 研究開発機構
機構教授 池田 富樹
推  薦 中央大学

研究業績の概要

 光を当てるだけで運動したり変形したりする高分子材料の開発に成功した。本技術研究は従来技術の改変や向上ではなく、質的に異なる学術・技術パラダイムシフトである。高分子は軽量・易加工性・安価など多くの長所を有し、現在では人間生活の隅々にまで浸透して使われている。これらの高分子材料は構造材料で、構造物に形を与え、その形状・構造を維持する役割を担ってきた。一方、受賞者が開発した高分子は、光を照射すると自律的に運動したり変形したりする。従来の高分子材料では、光に応答する分子を添加して光照射しても高分子の運動・変形は全く起こらなかった。本研究における成功の鍵は、光応答分子と共に協働現象を示す液晶分子を高分子中に導入したことである。光照射による光応答分子の分子変形が液晶分子の配向変化を引き起こし、液晶配向と強く相関した高分子鎖が変形、さらに架橋により一本の高分子鎖変形が物質全体の変形を誘起するという一連の事象が協働して起こる結果、高分子物質が変形し運動する。当該高分子は、光エネルギーを直接運動に変換して動く高分子であり、電極・電線・バッテリーが不要で、非接触で遠隔駆動も可能である。重いモーターなどの金属製の駆動部やギヤなどの付帯部品も不要なので小型・軽量のソフトロボットが実現する。受賞者は高分子に液晶性と光応答性を付与することにより、協働現象を示す光エネルギー変換能を備えた新しい高分子光機能材料を創出し、それらを用いて可逆的光運動を実現した。これらの研究は機能材料科学における新しい領域の開拓に結びつくものと考えられ、国内外で高く評価されている。

図1

図2