市村学術賞

第54回 市村学術賞 貢献賞 -03

マイクロ波アシスト磁気記録方式の原理実証と応用

技術研究者 東北大学 多元物質科学研究所
教授 岡本 聡
技術研究者 同大学 同研究所
准教授 菊池 伸明
推  薦 東北大学

研究業績の概要

 現在、ハードディスクドライブ(HDD)はデータセンターで超大容量情報ストレージデバイスとして利用されており、今後益々の進展が進むデジタル化社会における情報インフラ技術の一翼を担っている。今後、ますます急増するデジタルデータに対応するためHDDの記録密度向上は急務の課題であり、そのために次世代規記録技術としてエネルギーアシスト記録方式の開発が進められてきた。本方式は熱アシスト記録(HAMR)とマイクロ波アシスト記録(MAMR、図1)の2方式があり開発競争がなされてきたが、2020年に両方式がほぼ同時に実用化された。受賞者はMAMR方式について早くから独自に着想を得て、基礎理論構築を進めると同時に世界で初めて原理実証実験に成功し(図2)、本技術の有効性を明確に示し、その後の研究開発の進展に大きな貢献をした。本方式は、磁性材料のスピン角運動量が持つ固有周波数に同期したマイクロ波を照射することで、磁気共鳴による大振幅の磁化歳差運動を誘起させ、その結果、高効率な磁化制御を可能となるものである(図1下図)。
 受賞者は本技術に関わる基礎研究面だけでなく、多くの企業との共同研究ならびにJSTプロジェクトなどを実施し、実際の記録媒体ならびに磁気ヘッドを用いた記録実験なども行った。これらを通じ、実用上重要となる熱ゆらぎ効果など諸課題の抽出および物理起源解明などについても行った。さらに、従来の磁気記録方式やHAMR方式では実現が原理上困難である3次元記録の実証実験にも成功し、本方式による3次元記録の将来的な可能性についても示した。

図1

図2