市村学術賞

第54回 市村学術賞 貢献賞 -04

バイオインスパイアードナノゲル材料の創製と医療応用

技術研究者 京都大学 大学院工学研究科
教授 秋吉 一成
推  薦 京都大学

研究業績の概要

 生体高分子システムと関連した両親媒性高分子の自己組織化研究は、基礎から産業応用まで幅広く行われている。受賞者は疎水基をグラフト化した水溶性高分子(会合性高分子)が、水中で疎水基会合領域を架橋点とした物理架橋ナノゲルと言える新規な自己組織体を形成することを見出した。また、汎用性のあるナノゲル構築法として、様々な分子間力因子(静電的相互作用、水素結合、ホストーゲスト、配位結合など)を組み込んだ会合性高分子の自己組織化を用いる手法を提案し、新たなソフトナノ微粒子のサイエンスの扉を開いた。今では様々な機能性ナノゲルが設計され、世界的に幅広く研究されている。さらに、この自己組織化ナノゲルがタンパク質を安定に複合化し、ナノゲルからの放出と巻き戻りを制御しえる人工分子シャペロン機能を示すことを発見し、シャペロンインスパイアード材料設計の指針を提唱した。
 天然由来多糖を基盤とした疎水化多糖ナノゲルはシャペロン機能を有する初のナノキャリアとして、タンパク質医薬品のドラッグデリバリーシステム(DDS)として有用であることを実証している。特に、抗原タンパク質を封入したがんワクチンは、優れた免疫活性化能を示し新規がん免疫治療法として臨床応用へと展開している。また、カチオン性多糖ナノゲルは、経鼻ワクチンナノキャリアとして優れていることを見出し、様々な感染症予防ワクチン開発の基盤技術として応用開発が進んでいる。
 高分子ゲルは幅広い分野で利用されているが、架橋点の構造やゲルの網目のナノ構造制御は依然として大きな課題である。受賞者は、ナノゲルを基盤としたナノ構造制御されたゲルマテリアルの創製とその応用に関するナノゲル工学と呼べる新しい領域を開拓した。シャペロン機能を有する自己組織化ナノゲル集積架橋ゲルは、再生医療用足場材料として有用であり骨再生など様々な応用が期待されている。

図1

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