市村学術賞

第55回 市村学術賞 功績賞 -01

半導体デバイスの進展を支える新規配線材料技術の開発

技術研究者 東北大学 大学院工学研究科
教授 小池 淳一
推  薦 東北大学

研究業績の概要

 半導体集積回路(IC)の高速化と高集積化を実現するために、トランジスタと多層配線のサイズが継続的に微細化されてきた。しかし、微細化の進展に伴って多層配線に関わる二つの大きな課題が顕在化し、45nm世代以降のICの量産が危ぶまれていた。第一の課題は、Cu配線と絶縁層を隔離するバリア層が高抵抗であることに加えて一定以上(>5nm)の厚さが必要であったため、配線部の実効電気抵抗が上昇すること。第二の課題は、電流密度が上昇するためエレクトロマイグレーション(EM)による配線短絡や断線不良が頻発することであった。
 これらの課題解決に向けたCu合金の開発は欧米の企業、研究所、大学などで90年代前半から活発に実施されていたが誰も実現できなかった。その主な理由として、求められる界面構造を得るための駆動力のみに着目した試行錯誤的な研究を行っていたことによる。これに対して受賞者は、界面反応の原理を慎重に検討したうえで金属精錬の熱力学から固体電子論に至る広範囲の学術領域の知見を活用し、所望の配線構造を得ることができる唯一無二の材料としてCu-Mn合金を見出し、プロセス条件を提案した。
 具体的には、Cu配線に少量のMnを添加することで、MnがSiO2と反応して極薄(1〜2nm)のバリア層を自己形成するとともに、Mnが界面に濃化してEM不良を引き起こす高速拡散経路を遮断した。これらの成果を90nm世代の二層配線に適用して概念実証試験を行い、ビア配線抵抗を1/8以下に減少、EM寿命を100倍以上延命することに成功した。この結果をうけて開発の場所がIBM、Globalfoundriesに移り、2012年にSamsung製のApple A5チップに採用されたことを契機として、多層配線の標準材料として世界中のデバイスメーカーに利用されるようになった。

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