市村学術賞

第55回 市村学術賞 功績賞 -02

原子直視電子顕微鏡法の開発と格子欠陥制御ナノ材料の創出

技術研究者 東京大学 大学院工学系研究科 総合研究機構
教授 幾原 雄一
推  薦 東京大学

研究業績の概要

 結晶の界面、転位、原子空孔などの格子欠陥領域は、その周期性の乱れに起因する特異な電子構造を有しており、完全結晶には見られない機能発現の起源となっている。このような格子欠陥近傍の局所領域は構造自体が特異であり、これが材料機能に決定的な役割を持つことが多い。本研究では、これら格子欠陥あるいはドーパントを内包した格子欠陥の機能を材料に付与した格子欠陥制御ナノ材料を創出することを目的としている。
 上記目的を達成するためには、原子レベルで格子欠陥の構造や状態を高精度に計測できる手法が必要である。本研究では、我国で最初に球面収差補正-走査透過電子顕微鏡(STEM)法を導入し、原子分解能の電子エネルギー損失分光法(EELS)と第一原理計算手法を高度に融合することで、材料界面や転位を定量的に解析する手法を世界に先駆けて開発した。その中で、STEMの空間分解能で40.5pmという世界最高性能の記録を打ち立てるとともに、低角散乱電子を取り込む環状明視野(ABF)-STEM法を新たに開発し、リチウム原子や水素原子カラムの観察にも成功している。
 本研究で開発された原子直視界面電子顕微鏡法により得られた結果を元に、格子不整合領域が有する特異な電子状態に着目して、転位や粒界を積極的に材料中にビルドインする材料設計手法を提案した。その結果、一次元配向高密度転位を利用した高機能ナノ細線束の設計、粒界性格を制御したバイクリスタル単一粒界デバイスの設計などを行い、絶縁体のサファイアに一方向のみの伝導性を付与した新素子やイオン伝導体の伝導度を向上させた材料の開発に成功している。これらの材料開発手法は、次世代の高機能素子を創出する新手法として期待されている。

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