市村学術賞

第55回 市村学術賞 貢献賞 -01

ゲーム・チェンジのペプチド合成

技術研究者 中部大学 先端研究センター
教授 山本 尚
推  薦 中部大学

研究業績の概要

 受賞者は有機合成化学にルイス酸を導入し、現在の有機合成化学の基本を作り上げた。その主要な研究テーマは(1)デザイン型ルイス酸触媒を1970年から開発し、それまでの無機化合物から有機化合物の酸触媒を有機化学に導入した。(2)受賞者のデザイン型キラルルイス酸触媒は野依博士の不斉還元の研究に続き、C2対称軸を持つキラルルイス酸触媒が炭素骨格を合成する不斉触媒として、世界に先駆けて発明しその後の発展の先陣を切った。(3)複合型ルイス酸触媒を発明し、不可能とされた様々な反応を開発した。(4)不斉のブレンステッド酸触媒を開発し、昨年のリスト博士のノーベル賞受賞の基盤を作った。米国の有機化学の最も重要な賞と言われるロジャー・アダムス賞は以上の業績に対して与えられた。
 受賞者はシカゴ大学から中部大学に移動し、2010年以降全く新しい研究を始めた。それがペプチド合成の研究で、1960年代のメリフィールドの固相合成を完全にゲーム・チェンジする反応を開発した。従来のペプチド合成の問題点を全て解消し、既存の合成法の経済的な問題を完全解消する手法である。これによって、人類は中分子創薬時代に入ることが可能となった。実験室でも工場でも使えるゲーム・チェンジのペプチド合成を目標とする国内および海外での研究は受賞者の研究以外皆無である。なお、1960年代からの固相合成法では、収率が極端に低く、市場の要求には遥かに及ばない。しかし、受賞者のジケトピペラジン合成法やペプチドフロー合成、また収束合成では工程数を1/10以下にすることや、連続合成での無人化ができる。またこれによって、未踏の領域と言われた30ペプチド以上の長鎖ペプチド合成への道を開いた。

図1