市村学術賞

第55回 市村学術賞 貢献賞 -02

スピンを用いた力学センシング技術の開発

技術研究者 大阪大学 産業科学研究所
教授 千葉 大地
推  薦 大阪大学

研究業績の概要

 研究の背景: 人間社会・自然界において、「力学量」は最もありふれた物理量である。スピントロニクス技術の核心である磁気抵抗素子は「磁界」のセンシングや磁気記録に広く活用されている。しかしスピントロニクスはこれまで「力学量」のセンシングとは無縁であった。

 研究技術の概要: 受賞者は、力学センシングに特化した磁気抵抗素子をフレキシブルフィルム上に形成することに成功し、先駆的業績を上げた。特筆すべきはその感度であり、受賞者は従来の金属箔型フィルム型ひずみゲージの500倍もの感度を持つ素子の開発に成功した。また、スピンがベクトルであることを活用し、単一の素子で、ひずみ「量」のみならず「方向」の検出にも世界で初めて成功した(図1)だけでなく、同素子で生体モーションの同定にも世界で初めて成功した(図2)。

 特徴と効果/実績: 開発した素子の熱耐性や引張り耐久性も実証済であり、現在、いくつかの企業と本技術を実装した装置の実用化を模索中である。本技術は、身の回りに最もありふれた「力学量」のセンシング解像度を、一桁以上向上しうるという、人類にとって大きな意義と公益性を持つだけでなく、他のセンサとの融合集積化や、集積化による高精度ひずみマッピングや無電源センシングが期待できるという発展性がある。また、日本が世界をリードしてきたスピントロニクス技術を、これまでの延長線上にない異なる分野に積極適用し、実装範囲を飛躍的に拡大して社会的効果もたらすという観点、及び、学術研究の学際的相乗効果を生むという意味でも波及効果をもたらすものである。


図1

図1