市村学術賞

第55回 市村学術賞 貢献賞 -03

窒化ホウ素の科学と2次元量子材料への応用展開

技術研究者 国立研究開発法人 物質・材料研究機構
国際ナノアーキテクトニクス研究拠点
研究拠点長・NIMSフェロー 谷口 尚
技術研究者 同機構 機能性材料研究拠点
主席研究員 渡邊 賢司
推  薦 国立研究開発法人 物質・材料研究機構

研究業績の概要

 六方晶窒化ホウ素(h-BN)は、窒素原子とホウ素原子からなる黒鉛類似の結晶構造を持つ化合物(図1)であり、化学的安定性、耐熱性等に優れるために断熱材や絶縁体として、あるいはその層状原子構造に由来する機械的性質から摺動材料などとして長年実用に供されている。しかしながら受賞者の研究以前には、高純度単結晶の合成例はなく、電子材料としての応用はまったく未知数であった。受賞者は高圧下における高反応性のアルカリ土類金属系窒化物溶媒による高純度窒化物単結晶の合成技術開発と生成物質の光物性研究を進め、高輝度の深紫外線発光(波長215nm)を呈する高純度h-BN単結晶(図2)を世界で初めて合成した。電界電子放出源との組合せにより波長215nm領域のコンパクトな水銀レス環境対応型深紫外線発光源プロトタイプ(図3)を創製し、さらに開発した合成技術を、より広範な応用展開のために量産化が可能な常圧合成プロセスにまで実用展開した。加えて受賞者らは米コロンビア大学と共同で、この高純度h-BN単結晶が当時盛んに研究されていたグラフェン素子の基板材料として優れた特性を示すことを見いだした。これらの技術は、その後の二次元原子層科学における新しい展開を可能とし、以下の多くの優れた二次元物理学の研究成果の基礎となった。
 二次元系原子層材料で唯一の絶縁材料(ワイドギャップ半導体)としての当該高純度h-BN結晶の活用は国内外300機関以上に渡り、グラフェンにおける、整数及び分数量子ホール効果、理論限界となる室温移動度の実現、光学・電子特性の変調、二次ディラック点の誘発、トポロジカル量子輸送の制御、モアレ超格子・魔法角における超伝導の発見などがなされた。更に、遷移金属ダイカルコゲナイド系材料における新しいエキシトン光物性のダイナミックス、h-BN自身の光材料としてのナノフォトニクス制御や単一量子光源開発など、二次元原子層の基礎科学とその応用分野に関する広範囲に及ぶ研究に貢献した。

図1

図2


図3