市村学術賞

第55回 市村学術賞 貢献賞 -04

音楽を自動理解する情報技術の先駆的研究開発とその応用展開

技術研究者 国立研究開発法人 産業技術総合研究所
情報・人間工学領域 人間情報インタラクション研究部門
首席研究員 後藤 真孝
推  薦 国立研究開発法人 産業技術総合研究所

研究業績の概要

 人間が一生かけても聴ききれない膨大な音楽をコンピュータが解析して自動理解する情報技術は、既に音楽検索・推薦や、音楽に連動した表示・演出等の様々な場面で重要な基盤技術として普及している。受賞者はその音楽理解技術の実現を目的とした先駆的研究に1992年から取り組み、ビート、メロディ、サビ等のポピュラー音楽の主要な要素の推定に世界に先駆けて成功して「音楽の自動理解」という新領域を開拓した。いずれの推定も音楽情報処理分野での重要な標準問題となって、国際的に多くの後続研究を生む貢献をした。
 音楽の音響信号は、多様な楽器音・歌声を数十音混ぜて人間が創作した混合音で複雑なため、受賞者の研究以前はそれを解析して主要な要素を推定するという不良設定逆問題は未解決であった。受賞者は、少数の音源数を事前に決めるというポピュラー音楽には通用しない仮定をするのが常識であった当時の音響信号解析とは異なり、音源数を仮定しない独自の信号処理・統計的推定の枠組み等に基づく音楽理解技術を実現した。さらに、学術利用可能な音楽データベースを構築し、音楽情報処理分野全体が発展する基盤を築いた。
 そうした先導的な基礎研究と並行して応用研究にも注力し、「音楽理解技術が人々の音楽体験をどのように豊かにできるか」という独自の観点で研究を推進したことで、実用性・新規性の高い数々の成果を生んだ。例えば、音楽理解技術がなければ実現できない世界初の十数種類の「能動的音楽鑑賞インタフェース」(サビ出し、歌詞同期表示、音楽検索等)やインターネット上のサービス群を構築した。産業界と連携して実用化や実証実験を推進した実績も豊富で、既に様々な製品・デジタルサービス等で研究成果が活用されている。
 上記以外も含めた受賞者の幅広い研究は、メディア処理技術とインタラクション技術との融合により新たな価値創出と産業応用を可能にしてきた。卓越した学術業績と社会的インパクトは、多数の受賞に裏付けられるように国内外・分野内外から高く評価されている。

図1