受賞者はロボットの可能性をさらに拡げるために、2000年頃から人と関わるロボットの研究開発に、世界に先駆けて取り組んできた。その中で、1999年に世界に先駆けて、テレビ会議システムと移動ロボットを組み合わせたアバターの原型を発表し、その後2006年に究極のアバターである人間酷似型ロボットアバター、ジェミノイドHI-1を開発した(図1参照。図1は第6世代のジェミノイドHI-6)。ジェミノイドは開発直後から世界から大きな注目を集め、数多くのメディアにとりあげられた。
受賞者がアバターを開発する目的は、遠隔操作によって、本人の代わりに遠隔地で活動できる実用的なアバターを実現することと、そのアバターを用いて、アバターの存在感や、操作者のアバターへの適応を科学的に研究することである。受賞者は、ロボット工学的研究に加え、心理学的、認知科学的研究に関する多くの論文を発表してきた。
受賞者が開発してきたアバターの特徴は、主に人との対話によって関わる、半自律型であることである。操作者の動作を逐一アバターに転送する完全遠隔操作型のアバターに対し、半自律型は操作が容易で誰もが簡単に複雑なロボットアバターを利用できる。例えば、操作者がアバターに声を送ると、アバターが操作者の声を解析し、口の動きや頭の動き、さらには身振り手振りも自動的に生成する。さらには、声から感情を認識し、表情に反映することもできる。操作者の声を任意の人間の声に変換することも可能になった。すなわち、操作者は話すだけでアバターを操作できるのである。これにより、障がいを持つ人を含め、様々な人が容易に様々なアバターを利用できるようになった。
また、この半自律型アバターの重要な性質は、半自律型であるにも関わらず、操作者は、そのアバターの体を自分の体のように感じることである。受賞者は、この現象を心理学的、脳科学的手法によって確認している。
さらに受賞者は、大学発スタートアップ企業AVITA株式会社を立ち上げ、アバター技術の社会実装に取り組んでいる。AVITAが開発したCGアバターは既に、コンビニエンスストアやオンライン保険販売で利用されており、今後さらに普及していく見通しである。日本における最も深刻な問題は、少子高齢化に伴う労働人口の減少であり、今後50年で日本の労働人口は半減するとも言われる。アバターはその労働人口減少の問題を救う手段になると期待される。
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