市村学術賞

第52回 市村学術賞 貢献賞 -01

世界標準流体計算法の研究と国産ロケット開発への貢献

技術研究者 横浜国立大学 大学院工学研究院
准教授 北村 圭一

研究業績の概要

 研究の背景:流体の数値計算は、実験に比べ安価であり、豊富な情報を提供できるため、ロケットや車の設計に不可欠な存在となっている。こうした中で「速い流れ」と「遅い流れ」を統一的かつ正確に計算する数値解法が求められていた。「速い流れ(超音速流れ)」においては「衝撃波」と呼ばれる不連続面が発生するが、数値計算によるその安定かつ正確な捕捉は極めて困難であった。また速い流れの数値解法を「遅い流れ(非圧縮流れ)」に適用すると数値誤差が過大となり、その対策には高い専門性が求められていた。つまり多くの流体計算ユーザにとってこれらの数値計算は実質不可能であった。結果、流体計算のロケット等実機設計への活用は限定的となり、実機開発には大きな費用と時間を要した。
 研究技術の概要:衝撃波や遅い流れで数値粘性を制御し、上記課題を解決する流体計算法『SLAU2』を提案した。そして国産ロケット『イプシロン』の開発に貢献した(図1)。
 特徴と効果/実績:SLAU2は衝撃波に対し安定な数値計算方法である。従来法では異常解が発生し衝撃波がいびつに変形していたが、SLAU2はこれを回避できる(図2)。また受賞者は提案手法とJAXAスパコンを駆使して国産ロケット『イプシロン』飛行時の衝撃波の発生や空力特性を設計段階で精密に予測した(図1)。特にロケット表面に多数配置される突起の影響を詳細に調べた結果、各々の突起が作る時計/反時計回りのロールモーメント(=回転方向の力×半径)が相殺し最終値が想定内に収まることを実証した。これが2013年9月の初号機打上げ成功につながっている。この知見は他の国産ロケットにも利用可能である。現在、受賞者の提案手法は世界的に利用され、他のロケットや車、航空機、火星探査機、新しい移動手段「空飛ぶクルマ」等の設計に役立てられている。圧縮性流体計算の国内シェア8割程度であり、JAXAや国内企業、大学、米国スタンフォード大学、ドイツ等でも標準実装され、今後ますますの利用が期待される。受賞者は更にSLAU2を混相流、超臨界流れ、電磁流体(MHD)にも拡張した。これにより幅広い学問分野の発展にも貢献している。

図1

図2