電子の量子力学的波長に相当する約10nmの半導体超薄膜を用いた電子の運動制御の研究は、1969年に江崎玲於奈博士が提唱した超格子・量子井戸に端を発する。この研究は、二次元電子系の物理を発展させるとともに、量子井戸レーザや高移動度トランジスタなどを生み出し、IT社会の発展に貢献した。しかし、電子のエネルギーを完全に離散化する半導体ヘテロナノ構造、すなわち量子ドットの議論は1970年代にはまだなされていなかった。
受賞者は、1981年から1982年にかけて、 裕之博士と共同で、半導体中で電子の三次元量子閉じ込めによって運動の自由度をゼロにする量子ドットの概念を提唱し、そのレーザへの応用を提案した。さらに、量子ドットレーザの閾値電流の温度依存性が低減することを理論予測するとともに、量子ドットの物性物理や形成技術に関する研究を産業界と連携しながら推進し、量子ドットレーザの社会実装を実現させた。また、受賞者は、量子ドットレーザが高い温度安定性と優れた戻り光耐性を備えていることから、光電融合技術の光源として適していることをいち早く指摘し、その有効性を実証した。その成果として、量子ドットレーザを搭載した5mm角の光電融合集積チップが実用化された。
一方で、受賞者は単一量子ドットによる極限光源の開拓にも貢献し、単一量子ドットレーザの実現、光通信波長帯における単一光子源の開発と長距離量子暗号通信の実証、さらには単一光子源の世界最高温度での動作達成など、先駆的な成果を生み出してきた。また、受賞者は量子ドットなど半導体低次元構造の光電子物性研究も幅広く展開した。特に、半導体微小共振器における共振器励起子ポラリトン効果の発見は、固体共振器量子電磁力学という量子エレクトロニクスにおける新しい研究領域の端緒となった。
以上のように、受賞者は量子ドット研究の創始からレーザの社会実装まで、一貫して取り組んだ世界で唯一の研究者であり、量子ドットフォトニクスの発展に大きく貢献した。


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