市村学術賞

第57回 市村学術賞 功績賞 -01

フレキシブルエレクトロニクスにおける高度集積化技術の開拓

技術研究者 大阪大学 産業科学研究所
教授 関谷 毅

研究業績の概要

 受賞者は、ナノテクノロジーを基盤とした自己組織化ナノ材料やナノ印刷プロセス技術を開発し、フレキシブル・ストレッチャブルエレクトロニクスの特性均一化と動作安定化を実現した。この技術により、シート型生体計測システムを構築し、従来の大型装置に依存することなく、軽量・高精度・低コストで柔軟な生体信号計測が可能となった。特に、認知症に代表される中枢神経系疾患の早期発見、在宅医療、遠隔診断の分野で新たな進展をもたらす技術基盤として期待されている。
 技術的には、受賞者は自己組織化ナノ材料を利用した高結晶性単分子膜やナノ導電膜の成膜手法の開拓とその応用により、フレキシブルデバイスの電気的・機械的安定性を飛躍的に向上させている。さらに、ナノ材料を活用した伸縮自在な生体電極の印刷技術を開発し、これにより低コストかつ大面積で製造可能な生体計測デバイスの量産化を実現した。特に、有機薄膜回路における低ノイズ化技術や、膨大な生体データを圧縮・送信する超低消費電力の通信技術を統合することで、シート型脳波計の実用化を達成している。この脳波計は、医療機器認証を取得し、既に国内で臨床研究が進行しているほか、英国でも疫学研究での活用が進んでいる。この技術は、脳波計測にとどまらず、心電や筋電、妊婦の子宮収縮状態など、さまざまな生体計測への応用研究も進んでいる。さらに、認知症や精神疾患のスクリーニング、個人の健康状態モニタリングなど幅広い用途での活用が進んでいる。
 受賞者はこれらのフレキシブル計測システムを基盤に、複合的な生体活動ビッグデータプラットフォームの構築を進めており、疾患診断や創薬に貢献する新たなバイオマーカーの創出を目指している。世界に先駆けて超少子高齢社会を迎えた我が国において、医療のデジタル化や健康寿命延伸の実現に貢献する技術として期待されている。

図1


図2