農耕に適さないとされるアルカリ性不良土壌(砂漠土壌)は全世界の陸地のおよそ1/3を占めている。このアルカリ性不良土壌での農業が可能となれば、世界的な食糧不足問題が解決できる。受賞者らはアルカリ性不良土壌での農業の実現に取り組み、砂漠土壌でもコメやトウモロコシを栽培できる次世代肥料2´-プロリンデオキシムギネ酸(PDMA)を開発し、これを実用化段階まで引き上げた。以下、その概要を示す。
アルカリ性不良土壌では鉄が水に不溶な3価の水酸化鉄(赤サビ)となるため、植物は根から必要な鉄分を吸収できずに枯れてしまう。そこで鉄を溶かす人工の鉄キレート剤を散布するキレート農業が長年研究されてきたが、未だ効果の高い鉄キレート剤は見出されていない。一方、受賞者らはイネ科植物が根から分泌する天然の鉄キレート剤2´-デオキシムギネ酸(DMA)に着目した。しかしながら、ムギネ酸類は非常に高価(DMA:10万円/mg)かつ土壌中わずか1日で分解するため、肥料としての利用は不可能というのが一般的な認識であった。実際に、受賞者らが本研究を開始した当時、ムギネ酸が発見されてから既に30年以上が経過していたにも関わらず、ムギネ酸類を肥料として利用する研究は全く行われていなかった。そこで受賞者らはまず天然のDMAの実用的な合成法を確立し、DMAの添加によってアルカリ性不良土壌でもイネが正常に生育することを明らかにした。次に、DMAの土壌での不安定性と高価な原料コストを解決するべく様々な誘導体を合成・評価し、最終的に安価かつ安定なムギネ酸の誘導体PDMAを開発した。PDMAの投与によって砂漠の土でもコメが旺盛に生育できることがフィールド試験で実証され、その後、PDMAの更なる合成コストの削減に取り組み、わずか2工程でPDMAを合成できるプロセス合成法も開発した。これによりPDMAのKgスケール合成および海外での栽培試験が現在進行しており、2027年度以降の実用化を目指す会社方針が公表された。この研究の過程で、ムギネ酸の分子プローブ化やムギネ酸類が植物に取り込まれるメカニズムの解明なども達成し、実用面のみならず学術面からもムギネ酸類の実用化を推進した。


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