イオン化脂質の登場によって2010年にはDDS(Drug Delivery System)領域にパラダイムシフトが生じた。受賞者は「分子設計に基づいたDDSの構築」を実現する好機と捉え、イオン化脂質の開発を進めた。10年に及ぶ研究により、独自のイオン化脂質ライブラリーを構築することに成功した。2019年にはCL4H6を初めとする世界最高水準のイオン化脂質の探索に成功し、mRNAの送達やゲノム編集への応用にも成功した。ライブラリーからは、CL4H6に続いて、CL1A6/1H6、CL15A6/H6など種々のナノ医薬品用イオン化脂質を見出した(図1参照)。
イオン化脂質を基盤とする脂質ナノ粒子(lipid nanoparticle:LNP)は、COVID-19用mRNAワクチンの開発においても重要な役割を果たした。現在は、組織選択的な脂質ナノ粒子(LNP)の開発がDDS研究領域における最重要課題であり、世界中で激しい競争が行われている。このような状況の中、受賞者はイオン化脂質のライブラリーを用いて、内因性リガンドを介した標的組織・細胞への選択的送達システムの探索方法を考案し、肝繊維症に対する新たな核酸治療システムを開発することに成功した(CL15A6/CL15H6)。このように内因性リガンドを介した細胞選択的送達法の創出は、組織・細胞選択的標的化法の開発において、新しい探索の道を拓くという観点からも高く評価されている。
これらの成果に基づいて、北大独自のビジネスモデルを構築して国内外の製薬企業・ベンチャーと革新的ナノ医薬品の創出をグローバルに展開し社会実装に大きく貢献している。
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