活性な蛋白質を自在に集積する技術は、蛋白質を基盤とする新たな材料学を拓くだけでなく、その生理活性を活かした医薬品開発の道を拓く。数百個のアミノ酸が連結した巨大分子である蛋白質を全長の天然立体構造のまま集積することは困難であり、まして、その集積体を機能化する材料学は未踏である。
受賞者は、わずか11アミノ酸から成る短鎖ペプチド(JigSAP)を用いて、活性な全長蛋白質を一次元的に集積する蛋白質集積工学を開拓した。JigSAPは規則的に一次元集積しナノファイバーを作る。目的蛋白質の末端にJigSAP配列を導入することで、ナノファイバー上に蛋白質を集積することができる。
ファイバー状蛋白質は、細胞を覆う細胞外マトリクス(ECM)に見られる。ECMは、ファイバー状蛋白質コラーゲンと成長因子蛋白質の複合体であり、細胞足場機能と細胞増殖促進機能によって、生体の組織形成に中心的な役割を担う。構造相同性から着想し、受賞者は、JigSAPを基盤とした蛋白質集積工学によるECM相同材料の開発と医薬品応用に取り組んでいる。この独自の蛋白質集積工学を基盤に神経細胞の遊走と血管新生を促す蛋白質を一次元集積した材料を開発し、亜急性期脳梗塞に対して単回投与での行動機能回復に初めて成功した。血管組織の再構築、さらに神経前駆細胞の疾患部への遊走促進を可能にし、発症後7日経過した亜急性期脳梗塞からの歩行機能回復を齧歯類疾患モデルを用いて初めて実証した。受賞者は、蛋白質集積化により生体内の構造を再現し、生体内で機能させる蛋白質集積化学を開拓した。それによって、生体が持たない「脱落した神経組織の再生」という生命機能の限界を突破する材料学の新分野を拓いた。社会的にも重要な神経疾患に対して高い独自性と有効性を持つ治療材料として、今後の更なる応用が期待されている。


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