市村学術賞

第52回 市村学術賞 貢献賞 -03

大規模時系列データの動的学習とリアルタイム将来予測に関する研究開発

技術研究者 大阪大学 産業科学研究所
准教授 松原 靖子

研究業績の概要

 近年のIoTデバイスの急速な普及に伴い、産業、医療、環境等の様々な分野で、多数のデバイスから収集された時系列ビッグデータを高速に解析し、高度なサービスに活用しようとする動きが盛んである。モノづくり分野の組み込み機器や車載IoT、医療分野の埋め込み型/携帯型デバイスのような、計算機環境に制約のある小型エッジ端末での高速AI処理のニーズも高い。小型端末ではソフトウェアの省メモリ化とともに省電力データ処理が必須となるため、学習コストの軽量化も併せて実現しなくてはならない。
 受賞者はこれらの課題を踏まえ、深層学習等の既存の解析技術とは一線を画した新たな技術的挑戦によって、時系列ビッグデータのための複合時系列テンソル解析機構、非線形動的モデリング、リアルタイム要因分析・将来予測機構、および、これらの技術を発展させた自己進化型エッジ学習機構を開発した(図1)。最新の深層学習による予測手法と比較し、約67万倍の高速化、約10倍の高精度化(予測誤差88%減)を達成し、世界最速・最高精度の性能を示す。さらに研究成果を発展させ、Raspberry PiにエッジAIとして実装し、世界で初めて超小型端末向け自律型エッジ学習機構の開発に成功した。
 受賞者が開発した技術・機構は、Web/IoT/センサ等から継続的に生成され続ける非定常かつ複合的な時系列ビッグデータに対し、動的パターンの変化を自動追従し、エッジ等の小型・軽量な計算機環境において、動作可能な動的モデル学習・分析・将来予測を実現する。本技術に関する実用化の取り組みとして、これまでに数多くの有力企業との共同研究と事業導入を実施している。受賞者が開発したリアルタイム学習機構を用いることにより、装置稼働の時系列計測データから特徴量抽出・モデル学習し、故障発生の予測を高速かつ高い精度で行えることを実証した。開発ソフトウェアは、センサデータに潜在する特徴的パターンやその変化点を捉え、装置状態を推定しており、約13日前に故障の兆候検出に成功している(図2)。また現在は、医療をはじめとする様々な分野においても社会実装の取り組みを推進しており、今後も幅広い社会貢献と波及効果が期待できる。

図1

図1