市村地球環境学術賞

第55回 市村地球環境学術賞 貢献賞 -01

明るく豊かなゼロカーボン社会への道筋を示す定量的解析方法

技術研究者 国立研究開発法人 科学技術振興機構
低炭素社会戦略センター 研究顧問 山田 興一
推  薦 国立研究開発法人 科学技術振興機構

研究業績の概要

 2050年ゼロカーボンに向けて変化する社会の姿を描くには、再生可能エネルギーを主体とする新技術に依存した将来の電力供給量、電源構成やコストなどを明らかにし、更に、社会の産業構造もGDP等の指標を用いて定量的に示す必要がある。これらを明確にするために過去30年間、東京大学、科学技術振興機構低炭素社会戦略センターでの一連の研究成果をまとめ、以下1)、2)、3)に従ってその概要を示す。
 1)各種再生エネルギー技術に対する科学的知見に基づいた定量的技術シナリオの作成
 我々は、技術の進歩を、分子レベルから着目し、実スケールに展開したうえで評価する手法により、定量的な技術シナリオ作成を実践してきた。具体例として、太陽電池システムの変換効率と価格について、1990年時点で2010年までの予測を示し、さらに、2010年時点で2030年までの予測を示したが、いずれも現実の市場価格の動きと良く一致した。同様の方法により、各種再生可能エネルギーについて定量的技術シナリオを作成した。
 2)ゼロカーボン電源システムの構築
 定量的技術シナリオに基づく電源構成モデル計算手法を用いて2030年および2050年における電源構成を検討した。2030年では、CO2排出量を2013年比70%削減出来て、かつ電力需要1,400 TWh/y程度にて現在の電力コスト水準以下の電源構成が構築可能であること、さらに2050年には、電力需要3,000TWh/yであっても経済合理性を備えたゼロカーボン電源構成が構築可能であることを示した。
 3)明るく豊かなゼロカーボン社会への道筋を示す定量的解析手法
 我々は、一定のGDP成長率水準を保ちながら、ゼロカーボン社会の実現に向けての将来の産業構造を定量的に示すために、上に示した技術シナリオとゼロカーボン電源システムを取り込んで独自に作成した拡張型産業連関表とCO2排出表を統合化し、GDP、CO2排出量、電力需要量を計算する独自な手法を開発した。具体的な手順は、はじめに、2015年産業連関表に再生可能エネルギー電源を加え、2015年環境負荷原単位データブック(3EID)を活用して、173の生産部門と財・サービス部門で構成された拡張型産業連関表とCO2排出係数表を作成した。つぎに、GDPとCO2排出量に影響を及ぼす電力(建設と発電)、鉄鋼、化学工業、自動車、機械製品、建築、情報サービス、医療、電化、観光の10分野を選び、前記の173部門拡張型産業連関表を用いて、2030年および2050年に予想される変化を与えて産業連関分析を行い、GDPとCO2排出量を算出した。それらの結果からGDP成長率を保持しながらのCO2排出削減の目標は達成可能であることを示し、あわせて目標達成に向けた政策課題を明らかにした。