市村地球環境学術賞

第56回 市村地球環境学術賞 功績賞 -01

フレキシブル有機環境発電デバイスの開発と実用展開

技術研究者 九州大学 高等研究院
教授 安田 琢麿
技術研究者 株式会社 リコー Energy Harvesting事業センター
新居 遼太
推  薦 九州大学

研究業績の概要

 センサーやウェアラブルデバイスに代表される様々な「モノ」が常時ネットワークに接続され、あらゆる情報をビッグデータとして社会・経済活動に利活用するIoT社会が到来している。次世代IoT社会の構築における重要かつ喫緊の課題は電源である。超低消費電力デバイスの発展も相まって、配線不要、メンテナンス不要、かつ必然的に小型・軽量で、我々の生活空間のあらゆる場所に柔軟に適応できる分散自立型電源が希求されている。なかでも、生活環境にあまねく存在する「身近な光」をエネルギー源として捕集し利用する光環境発電は、次世代IoT社会を下支えする基盤技術として近年注目されている。
 開発に成功したフレキシブル環境発電デバイス(図1)は、①微弱な光さえあればいつでもどこでも高効率に発電でき、②紙のように薄く軽く柔軟で、③メンテナンスフリー(電池交換不要)で永続的な発電が可能な未来志向のエネルギー技術である。屋内のような低照度(約200 lx)から屋外の日陰相当の中照度(約10,000 lx)環境下において、20%に迫る高い電力変換効率を実現する。基本素子は、p型およびn型有機半導体からなるバルクヘテロジャンクションを光電変換活性層として利用している(図2)。同一面上に配置した複数のサブセルを直列に結合した構造を有し、デバイス設計の自由度が高く、セル数や面積、形状などを自在に設計できる利点や、デバイス作製のプロセス上の優位性を有する。さらに、曲げることができるフィルム形状であるため、様々な形状のデバイスや筐体へ搭載可能であり、分散自立型電源として高い機能性を発揮する。また、重金属や有害物質を含まず、真にクリーンなエネルギー技術として、SDGs(持続可能な開発目標)のGoal 7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」への貢献も期待される。フレキシブル有機環境発電デバイスの社会実装は、将来、大きな社会的・経済的な波及効果をもたらすものと期待される。

図1

図2