カーボンニュートラル社会の実現に向けて、再生電力を用いた水電解水素製造は不可欠な技術となっている。中でも、高いエネルギー効率をもつ固体高分子型(Polymer Electrolyte Membrane: PEM)水電解には、大きな期待が集まっている。しかし、PEM型水電の酸素発生電極には、希少元素であるイリジウム(Ir)が用いられており、同技術の大規模普及を妨げている。
我々は、同課題の解決に向け、豊富に存在する酸化マンガンに対してオペランド分光法を適応することで、活性と安定性の両方を兼ね備えた酸素発生触媒の開発を進めてきた。同時に、酸化マンガンとイリジウムイオンの特異的な相互作用を利用することでイリジウム使用量を抑えた新規触媒材料の開発を行ってきた。下記に、具体的な成果を記す。
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MnO2とCoの複合酸化物が、強酸環境で、100mA/cm2以上の高電流水電解を1500時間以上に渡り持続できることを実証。また、MnO2の格子酸素の構造を制御することで、強酸環境で、200mA/cm2の高電流水電解を3000時間以上に渡り持続できることを実証。これにより、非貴金属触媒の水電解量を二桁向上させることに成功した(図1)。 |
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上記の強酸耐性を有するMnO2が、Irイオンと特異的に相互作用する現象を発見。これにより、計算化学により活性と安定性の両方を備え持つ理想的な酸素発生触媒として予測されたIr(6+)O3種を合成することに成功。同触媒をPEM型水電解の酸素発生触媒に用いることで、Ir使用量を90%以上削減(0.08mg/cm2)した条件で、2.0V・80℃において4.2A/cm2の電解電流を得ることに成功。同触媒は耐久性にも優れ、82%の電解高効率を維持し続けながら3500時間の連続運転に成功した。また、マルチスタック可能PEM電解槽を開発し、電圧の下限と上限を制御することで変動電圧条件下においても安定に駆動することを実証した。 |
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