市村地球環境学術賞

第57回 市村地球環境学術賞 貢献賞 -01

燃料電池システムシミュレーターFC-DynaMoの開発

技術研究者 京都大学 大学院工学研究科
特定助教 長谷川 茂樹
技術研究者 東京農工大学 大学院工学研究院
准教授 金 尚弘
技術研究者 京都大学 大学院工学研究科
教授 河瀬 元明
推  薦 京都大学

研究業績の概要

 燃料電池システム内では、物質輸送、伝熱、電気化学反応など複数の物理現象が同時に起こるため、それらの挙動を総合的に把握することは困難で、燃料電池システムの開発には多大な時間と労力が必要とされてきた。受賞者らは、燃料電池スタックと水素システム、エアシステム、冷媒システム、および制御システムを含む包括的で革新的な燃料電池システムシミュレーターFC-DynaMoを開発した。FC-DynaMoでは燃料電池システムの各種部品の特性や作動条件と動力、燃費、熱負荷などのシステム性能との関係を定量的に計算することができる。構築したモデルは最新の市販燃料電池自動車である第2世代MIRAIを用いて収集された幅広い環境での試験データを再現できる。また、年単位の耐久試験シミュレーションを実現するために、実時間の約40倍速で計算できるようにした。このように燃料電池システム全体の挙動を高速かつ正確にシミュレートできるプログラムは世界に類をみない。
 燃料電池システム内の現象はMATLABプログラムに実装し、各物理現象間の相互作用はSimulinkブロック図に実装した。これらを組み合わせて下図に示す燃料電池プラントモデルを構築した。
 ソースコードを含むMATLAB版およびアプリ版を開発し、自動車、定置用発電機、船舶などの燃料電池システムが従来から注目されてきた事業者や、燃料電池産業への新規参入を希望する事業者等、約200の国内の団体と個人に提供した。システム構成や構成要素を変更したい場合にはMATLAB版を、材料特性や負荷パターン等を変更して簡易に性能をシミュレートしたい場合にはアプリ版の利用が推奨される。FC-DynaMoは燃料電池研究開発の先導的な役割を果たしており、水素社会における日本の競争力の強化に貢献している。

図1