新技術開発助成

第102回新技術開発-04

極薄試料が作製可能な長寿命且つ万能の超硬合金製ミクロトーム替刃の開発

技 術 開 発
契 約 者
株式会社 ファインテック
代表取締役 本木 敏彦
所 在 地
福岡県柳川市
技   術
所 有 者
株式会社 SNT
技   術
開 発 者
株式会社 ファインテック
研究開発室 室長 和田 芳昌

技術開発内容

 医療現場では診断名、良性・悪性の鑑別、病変範囲などの診断を行うため、患者から採取された組織材料を調べる病理組織検査を行う。内視鏡や手術により摘出された臓器・組織を、パラフィンに包埋し、それから切り出した数ミクロン厚の切片を染色し、顕微鏡で観察する。硬さの異なる複合物の薄切となるが、刃先に欠けを生じると標本にキズが生じ診断が困難になるため、頻繁な刃物交換を余儀なくされる。また正確な診断には薄い切片が望ましいが、縮みやカーリングなどの変形が起こりやすくなる。現状、組織の硬さや、所望の試料厚みによる、刃の使い分けが行われており、一つの医療機関において平均年間3000枚の替刃が使用されている。技術開発者は、超硬合金製の高性能刃物を開発・製造してきた。鉄鋼材料製刃物に比べ、単価は上がるものの、高精度の加工が長寿命に可能なメリットを、電子部品、フィルム、自動車部品の加工分野で実証してきた。技術を病理組織検査用刃物に適用することで、硬軟様々な組織に万能に対応可能な長寿命な刃物を実現しうる可能性に着目し、医療機器メーカの協力を得つつ開発を進め、先端Rが数十nmの刃の、逃げ面・すくい面に表面加工を施すことで、パラフィン単体であれば、従来刃物では不可能な1ミクロン厚の変形の無い薄片が得られることを示した。
 本助成事業では、臓器を含む試料に適切な刃先角度・形状を見出すとともに、臓器と刃物の逃げ面、臓器切片と刃物のすくい面の摩擦を低減する技術を開発する。前者では、分子動力学シミュレーションを援用して形状最適化を図り、後者では株式会社SNTの交互吸着法を用いたコーティングを適用し、臓器が付着しにくく、滑りやすい表面を、実用的コストで実現する技術の実用化を図る。
 刃先交換回数を現状の20分の1以下に低減することが可能になることが期待されるが、この交換作業時間は、一医療機関当たり年間70時間以上に相当する。また切片の縮みやカーリングが少なくなることで、後工程で修正するためにスライドグラス上に伸展する熟練と時間を要する作業が不要になる。これらにより診断の効率化が図られるとともに、刃物交換時のケガによる感染リスクも低減する。より薄く、変形の小さい標本の作製による誤診リスク低減効果も期待され、QOLの向上へ大きく資すると期待される。

図