電子顕微鏡の感度向上は様々な技術で成し遂げられてきたが、その技術の一つである位相板を用いた電子顕微鏡高感度観察は、理論的に確立され簡便でもあるため、近年広く用いられるようになってきた。しかし、電子線誘起位相板帯電による像劣化問題を十分克服できていないために、未だ市場へ安定的供給ができる長寿命の位相板は実現されていない。
位相板の帯電にかかわるのは、主に、1)位相板素材の導電性、2)位相板の汚れ、3)位相差手法に起因する位相板形状の問題、の3つの要因である。そこで今回の「無帯電化位相板」作製法の開発試作では、3要因の回避策として、1)の位相板素材として、導電性の高い薄膜の採用、2)の汚れ回避として、種々のクリーン化技術の応用、そして3)の位相板形状としてはヒルベルト位相板を採用する。これら3つの帯電回避策の技術統合により、電子顕微鏡の感度向上それに付随する解像度向上の両者を可能とする長寿命位相板の安定的市場供給の基盤を確立する。
本開発試作が成功すれば、既存の電子顕微鏡に装着するだけで大幅に感度と解像度を向上させ得る。特に、今までは困難であった細胞の高解像度立体構造解析に道を開くものとなり、 生命科学に大きな進歩をもたらす。将来は生体分子の単粒子解析への応用展開も期待される。
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