インフルエンザ治療薬であるオセルタミビルの製造原料として用いられる「シキミ酸」は、現在は天然植物であるトウシキミの果実から抽出され、その80~90%が中国で生産されている。しかし、入手経路が限られることからインフルエンザ流行時には価格が高騰したり、植物原料に頼るために天候や産地情勢に供給量が左右されることが課題だった。そこで、本開発では、信州大学の研究成果である糸状菌を用いた新規のシキミ酸製法により、高純度のシキミ酸を安定的に市場に供給することを目的とする。
具体的には、本開発では国産ウスヒラタケ菌糸を用いてシキミ酸を製造する。まず、液体培養したウスヒラタケ菌糸を用いて、培養作業および自動植菌作業条件を最適化し、薄膜状の菌糸を高効率で大量培養する。次に、本開発で試作する「青色LED照射装置」を用いて、培養した菌糸薄膜にシキミ酸を特異的に蓄積させる青色LEDの光強度および光刺激時間等の条件を最適化する。さらに、得られたシキミ酸を高純度化するため、シキミ酸精製時に同時に抽出される水溶性不純物を減少させることを目的として、「有機溶媒循環法によるシキミ酸抽出装置」を開発し、精製効率を大幅に向上させる。
本開発により新規高純度シキミ酸製造技術が確立されると、これまで実現されてこなかった国産の高純度シキミ酸の安定的供給に道が開かれる。高純度99%のシキミ酸は、医薬品原材料用途で期待され、また、高純度95%のシキミ酸は新たに化学品・化粧品等の原料としての用途が期待されており、今後の需要拡大が見込まれる。
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