機能性酸化物単結晶材料は通信・エネルギー・情報関連の様々なデバイスに組み込まれ、今後も市場規模拡大が見込まれている。これら酸化物単結晶製造では、高融点で化学的に安定な金 属であるイリジウム(Ir)製の坩堝が用いられるが、Irは鉱脈が南アフリカに偏在しており、採掘量も他のレアメタルより極めて少なく、また、強度に乏しく塑性加工が困難で加工コストも大きいために、非常に高価で、かつ供給が世界情勢の影響を受けやすいという課題があった。
本技術は、これらの課題を解決するため、東北大学後藤教授の協力の下、熱CVD技術を用い、より安価な金属であるモリブデン(Mo)やタングステン(W)製の高融点金属坩堝の表面にIr等の傾斜膜を成膜することにより、Irの使用量を大幅に削減しつつ、酸化物単結晶の製造に必要な1,500°C以上の高温下でも膜剥離のないコート坩堝の作製を可能にするものである。MoやWは加工性にも優れ加工コストも低減しつつ継ぎ目のない高強度の母材が得られるため、従来のIr坩堝に比べ遙かに安価で、かつ高強度の坩堝を作製することができる。
本技術のイリジウム傾斜膜コート坩堝によれば、酸化物結晶メーカーからのイリジウム低減・フリー化の要望に応え、酸化物単結晶材料の低コスト化や安定供給に繋がり、ひいては、我が国が強みを持つ機能性酸化物単結晶材料を用いる産業全体の競争力強化への大きな貢献が期待される。同時に、稀少資源の特定国への依存を緩和しうるものであり、地政学的な観点からも社会的・公益的価値の高い技術といえる。
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